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作品 - 20110521_217_5235p

  • [優]  金曜日 - ゼッケン  (2011-05)

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金曜日

  ゼッケン

おれに運転されるタクシーはブレーキペダルを踏まれることなく前方の路肩に停止したバンの後部に追突した
つまりおれはわざとぶつかった、わざととは明確な目的があったという意味だ、ふたりの男がひとりの子供をクルマに連れ込もうとしているのを見たら、
タクシードライバーならそうする、うしろの客がわめいたのでおれは振り返ってパンチして黙らせる
客にパンチしたのはこのときすでにおれが並みのタクシードライバーではなくなっていたからだ
運転席から降りたとき、男のひとりが腰の裏側に手をまわしたのが見えた、刃物だろうか
銃かもしれない
おれは跳躍し、タクシーの車体を飛び越えて男の背後に降り立つと男が振り向く前にその首に腕をまわし、頚椎を脱臼させる
倒れた男が握っていたのは手錠だった、子供に手錠をかけるつもりだったのかと思うと吐き気がしたので痙攣する男の後頭部を思い切り踏みつける
あっけにとられていたもうひとりの男がようやく動いたことを背後の気配で感知し、間合いに入ったところでおれの後ろ回し蹴りの餌食にする
子供の手をとり、タクシーの助手席に乗せるとおれたちは出発した
背後に遠ざかるバンの運転席に座った男たちの仲間が無線機に向かってなにか喋っているのをバックミラーで確認したおれは
タクシーに備え付けた暗号解読無線を使って男たちの会話を傍受する
男たちはヤクザでもケーサツでもなく自衛隊だった
おまえ、何者だ?
けっきょくおれは子供にきいた
もと金融破壊兵器。ある種の直感に優れた子供たちに相場を張らせていた、これがよく当たるという評判がひそかに広がり、
大手の顧客が続々ついたところで予想を外す、評判も意図的に流したものであり、計画的にある層を破滅させたわけだった
子供は、用済みになったので始末されるところを逃げ出したのだという
こうなることは分かっていたの、だってぼくのは本物の予知能力だったんだもの
おれが現れることも分かっていたのか?
あなたの名前はジョーンズ、でも、あなた、が何者なのかは知らない、ぼくの予知はここで終わっちゃった、あなたに会って終わり。ぼくは死ぬの?
ジョーンズ調査官、
うしろの客が白目を剥いたまま、声帯だけを震わせる
いつになったら本部に向かうのかね? 
おれは催促され仕方なくギアをトップに入れる
タクシーは大気圏から脱出する、おれは助手席の子供に言った
おれたちは光速を越えてるからな、予知なんかできないさ、わくわくするだろ?
子供はえへへと笑った
やったね、生まれたときからずっとこうなる気がしてたんだ、これは予知なんかじゃないんだけど、子供はおれにウインクを返してよこした