選出作品

作品 - 20110420_061_5154p

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Ou est ma agneau

  雛鳥むく

日記帳、
欄外の余白を縮絨し
つくられた子羊に
錆びた針を飲ませる
わすれられた浜に
とり残された
もろい足跡のように
母の筆跡は、
幾度目かの春で途切れていた

郵便受けに手紙が
一通も入っていなかった朝、
どんなに柔軟な挨拶でさえも
遊泳魚のように
身を踊らせるねむりを
捕らえることができない
汚された不在届を
盾のように構えながら
ただ促されるままに
汽水で素足を濯ぐ
一方で、
Kimiと呼ばれた子羊たちは
桟橋から波間へと飛びこんで
跡形もなく蒸発し
まもなくみんな雲にかわった

そして、
それら名もなき雲が
しなやかに軋み
ねむったまま
目覚めることのない母の
痩せ細った躰を降らせる
背筋にはひとつ
縦にながい亀裂が入っており
ああ、これは
まるで蝉の抜け殻だ、

わたしは
乾ききった彼女の
たくさんの残骸を
戸籍謄本とともに焼却していく
そのころ、
空の上では
無人の成人式が
ひそやかに執り行われていた

居間で飼い慣らされた
鶺鴒と
交接をする
(とても孤独だったよ)
教則本の
硬質なにほんご
ゆるされた
ハーベスト、
子宮のなかで
子羊たちをKimiと呼び
呼ばれるために
蹄の墓場で夜を越す

あらゆる
指紋
そして
従属する
行方不明者
射精を
追う
メタファー

母の
無機質な猟銃が
子羊に向けられたとき
わたしは、
固有名詞を棄て
どす黒い血を吐くだろう
お母さん、これが
あなた自身の訃報です
郵便受けに手紙が
一通も入っていなかった朝、
柔軟な挨拶たちは
もう
母の名前を呼んではくれない
誰も
母の名前を知らない