選出作品

作品 - 20110308_913_5059p

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航海に出ようよ

  美裏

新大陸を探す航海に出ようよ
いますぐに
思い立った今日というこの時に
持ち物はポケットの中に入るもの
航海に出よう
吠えまくる犬といっしょに
こんないいお天気の日に
わたしたちはお出かけします
そしてもう二度と帰ってきません
「さよなら」
は大気に散るように消えていきました
前世のように遠ざかる日々
学校で
先生に「階段に座るな!」と注意されたわたしたち
「ご指摘ありがとうございます!」
と一斉に立ち上がりお辞儀をした
「ふざけるな!」
と怒鳴られてびんた
こんな理不尽なことってある?
いや
ない
と自問自答にこくんこくん頷く
わたしたちはただはしゃぎすぎて酸欠で死にたいだけだったんだ
でも祭りの閉鎖
それに伴うやり場の無い想い
ペットボトルのラベルを剥がしたりしているうちに
いつも夏が終わってしまっていた
いつもわたしたちは遅すぎる
取り返しがつかなくなってようやく気付く
そして
賞味期限のきれたやばいショートケーキをむしゃむしゃ食べて
「おいしいね」
って
わたしたちの舌は終わっていた
だから
新大陸を探す航海に出ようよ
ポケットの中にコンビニのレシートを入れて
わたしたちは新大陸を探す航海に出る

わたしたちは卒業式に出席しない
終わりは自らの手で行うのです
ふらりと道に迷ったふりをして
もう二度と戻ってきません

潮風を浴びて
きみの最後のリンスのいい匂い
「あんた、素敵な方向音痴だね」
そう船長に誉められた
まあね
わたしは笑う
そうしてぐるんぐるんアレを回す
道連れなのだ
わたしの感覚に
でもそのおかげでくじらに会えるよ
きっと
虹色に輝いてるまだ誰も見たことのないやつ………

わたしたちは旅に出ました
それからかなりの月日が経ったようです
新しい大陸はまだ見つかりませんが
予兆はあります
もし誰かさんが言ってみたいに
この大地がほんとに真ん丸なら
わたしとあなたも再び会えるかもしれませんね
その時はもっと違った形でわかり会えるかな?
でも
でもね
世界の端は崖になっていて
そこから落っこちて死んじゃうかもってちょっと思ってる