選出作品

作品 - 20101203_483_4873p

  • [佳]  血涙 - 破片  (2010-12)

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血涙

  破片

・与えられた真黒で、どこにあるかもわからない、輪郭のはっきりした、「くだらねえ」、呪詛。
・そこにジョイント挟めよ、このマチエールが捌ききれない、読む、慧眼、書く、興味が失せる。
・金はなく仕事もない、学は投擲されるために一旦手の中にこぼれる、そうして価値が浮上する。
・ドカタの人たちは誰よりもブルーシートを綺麗に畳む。手つきには擲たれた時間が見えている。
・煙草を捻りつぶす時、眠りに就いた瞬間らしいただ黒い時空、一日の呼吸の回数、気持ちいい。
・場所を選べない稲妻、カップの取れない黒シミ、帰ることもできない雨粒、下へ、したへ、と。
・カミュの最大の命題を思い出してニーチェへの信仰心が必要になる、きっと暗算を果たしみる。
・四十三、その暗算の正当性について「そら」、「みず」、「演繹」の語を用いて論述されたし。
・糸のように、引き伸ばすと音が可視になる。全ての物質から音階を抽出してスコアを描きだす。
・真黒が降ってくる、のではなく、拡充していく、もとより存在していたものなんだよ、洗濯槽。
・生涯現役韜晦。阿呆阿呆しい字面、気品はないが説得力がある。それで充分じゃないか、詩人。
・祖母の声は枯れない、肌のキメも涙も脳髄を食い潰してでも誰かを起こし人を呼ぶ、死んでも。
・部屋が明滅するからワケがわからない。疎らな雲の悪戯。そのときだけ、部屋は開けていった。
・土まみれで仕事してみたい。だから叩かれた。何か強制してほしい、だから時は巻き戻らない。
・外界と自室の境界が曖昧になると、雨音が、ゆっくり忍び込んで、受け取れない夢を差し出す。
・主観と客観の境界が曖昧になると、言葉が、いきなり去っていき、分割された意図だけが残る。
・いと、いと。つながない。あたりまえだろう。人種によって色彩感覚さえ違う。空は白いんだ。
・他人が喜ぶと蹴飛ばしたくなるので、だから他人とは他人のままでいて、そうであるしかない。
・∴コーヒーを啜る、自画が醜い、鏡を叩き割る、手の甲が破けて流れ出たのは「くだらねえ」。
・石段には水滴の形した孔がある。穴ではない。続いていけよ、そこからが本当の深淵だろ神様。
・深緑の山並みをなぞるから限界が生じる、何もないことにできないなら、せめて「何かない」。
・何かない、そう呟くとどこかで生まれる生命は黒い。何かはある。だから白くなくて心になる。
・物干しに猫なんていない。ここは新海誠が創ったユニオンだ。空と戦闘機と雲だけがいていい。


 それだけでできたわたしは、もうこれ以上言葉を持っていない。あるいは、絞り出せば、まだまだ織り紡いでいけるかもしれない。けれど時間がなくて、力もない。熱意は、最大値が予め設けられていて、自覚せずに増やそうとしなければその頂辺はみるみる降下してしまうんだろう。しかしわたしは、わたしではない。わたしはわたしのふりをしている。わたしは、わたしのふりをすることで熱意を詐称し、ごく個人的なラベルを焼き込まれた頭脳をクラックし、悪意性のある一部開示を施し、部分的にではあるが自在に操作することによって、本来あり得るべきではない電気信号と薬学物質との交感を意図的に発生させている。そういうふりをしているのだろう。

 どうして生んだの、と母親に尋ねた。今度はどうして生きているの、と尋ねている。手当たり次第に。最後にわたしに。何度も。

 ひとは空を見果てなくて、幾多の、幾億幾兆の、指先が届かない。どうして空から求めるものを掴みだそうとするのかわからないので、わたしも思い切って掌を掲げます。縮こまって赤ん坊みたいな五指が胡散臭く透明になるのを見たその時が、今になって、両肩に焼きごてを、Vの文字を、刻まれた記念日だと知りました。わたしが声をあげて泣く、濡れた頬の下には冷たくてたしかな石の感触。わたしはわたしの痛みのために泣いたのに、どうしてでしょう、この涙が石畳全体に染み渡り、ほんの少しでも温度が伝わればいいと思っていたのでした。