コンビニエンスストアの前には郵便ポストがある
住む地域が田舎だからだろうか
ぼくが子供の頃は郵便ポストはタバコ屋の前にあった
ひざ小僧にかさぶたをつくったぼくが
タバコ屋の前の路地をかけていく
そこには郵便ポストが立っていたはずだ
専売公社と郵便局の信頼関係は
子供だったぼくの社会性善説をはぐくんだ
とう!
郵便ポスト vs おれ
弱い方が!
強い方の周りを!
回るんだよッッ!
爪先立ちで膝を曲げ腰を落とし
左右の手刀を胸の前で構え
おれは郵便ポストの周囲をちょこちょこした足取りで行ったり来たりしつつ
ときどき休んだ
ポストの投函口は速達と普通に分かれているが
全体としてはひとつの直方体だった
それを一本の円柱が支えている
ポストとの間合いの取り合いではやくも体力の消耗を感じたおれは
ひとつ息を吸い、吐く途中で渾身のローキックを放った
コーン!
足の甲に走った亀裂が見えるような痛みがおれを
みるみるうちに目減りしていく闘志に
むしろ死に物狂いでしがみつかせた
骨だけで済むと思うなよ
心も
折ってやるから
真っ赤に点滅しながらゲージが空になっていく
KO、その寸前に
捨て身の片足タックルをおれは敢行する
格闘技はウェブの記事で読んでいた
つまり、おれは格闘技の記事が好きだ
しかし、格闘技をやっている人間は
どちらかといえば筋肉から遠いおれをバカにするにちがいないと思う
昔はバキを立ち読みしていたこともある
すなわちおれは片足タックル! と叫びながら
郵便ポストの支柱にヘッドスライディングを敢行した
雨が降ってきた、たぶん
郵便ポストの根元でうつぶせに倒れている人間は
悲しい
雨が降ってきた
あれだけ大勢いるカラスは
いったいどこで死ぬんだろう
カラスの死体が落ちてくるのを見たことがない
ねぐらに辿りつく前に力果てたカラスは
それでも
空から降ってくるんだ、黒い矢印のように
そして郵便ポストの下で伸びているおれの尻に突き刺さるにちがいない
ぷすっ、と
言いたいことはない
届けたかっただけだ
おれは最後に両手両足を伸ばしてビクンビクンと2回全身をえびぞらせる
選出作品
作品 - 20100923_475_4723p
- [佳] 葉書 - ゼッケン (2010-09)
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