とおいとおい湖、の、《水》の中に手を入れて、触れてくださ
い。ぼくに。水面に触れた 瞬間、指先、世界が揺らいだ。あ
なたはおぼろげにしか、ぼくを見ることが出来ない/いつも、
抽象的でありたかった。ぼくの家は湖の浅瀬の近くにあるので
すよ
。あなたの前では/ 指をぬらした記憶を、夜の街、信号機で
足を止めた、そのたびに思い出してください。爪先から滴り始
めた、いつも。湿気を朝まで残して、気だるい寝癖をなおすた
めに顔を髪の毛に埋める、空は案外近かった/のですね。
湖で泳ぐ少女たち 自らの薄っぺらい爪を
噛みつづけている 粉 々 に砕かれた爪を
息 継 ぎ に紛らわせ 水面に浮かべる
それから、少女たちは一斉に岸辺へ向って
掬いあげられた水たちは 危険性を
孕みながら 空に近づいた
/静寂に包まれた湖では、夕暮れに残された僕の影たちがかす
かに揺らぎながら、お互いに見つめあい続けている、けれども、
決して触れ合うことはありません。そうして、影は拡張し続け
て、空までの距離を縮めるのでしょう、今日も、明日も 水面
がかすかに指先を求め続けるのです。
選出作品
作品 - 20100428_310_4348p
- [優] 波紋、きみは指先の感触を知らなかった - 葛西佑也 (2010-04)
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波紋、きみは指先の感触を知らなかった
葛西佑也