昼間に起きて花江はドブ川に沿って散歩する
青い空 橙色に膨張している日光がまぶしい
目眩 ゆうべの会話
もっと猥褻にもっと卑猥に
もっと生き物らしくぼくを愛して
腐りかけた林檎から漂う独特の香り
わたしは 冬の日射しに
ふらふらになって
フラン フラン 腐乱 と
ハミングする
窓辺に寝そべって
おとこをみている
と
その男は白いシーツの中で
キリストの様に痩せてゆく
ポルトガルの教会にあるような
黒く骨張った重たそうな四肢に
なにか可愛らしい装飾をしたく
心臓を象ったような深い葡萄色の壜から
パルファンを垂らした
それはいつか空港で
退屈まぎれに買い物した
クリスチャンディオールの
毒という名前の濃厚な香り
花江チャン、君にぴったりなおもしろいものを見つけたよ
と
当時退屈まぎれに付き合っていたポルトガル語の教授が
フランクフルトでルフトハンザに乗り換える時に言った
このひとは一体わたしの何を知っているというのだろう
それから何年も過ぎた今でも
教授は律儀にもわたしの誕生日に手紙をよこす
どのような仕事をしたか
どのような本を読んだか
仔細に綴ってある
小さな字で
わたしは何年も過ぎた今でも何も変わらない
特別に何かが得意だとかできるとか知識があるとか何も持たず
このドブ川のような生活の汚水をたらたら流している
その沿道に蒲公英が咲いてるの
それがいかにも健気に見えて
涙がでてくるのよなんだか変ね
冬だというのに暑いじゃない
気候のせいだと思うけどふらふらする
フラン 腐乱 フラン と
ハミングが聞こえる
直射日光が膨張して背景が遠くなる
目眩を引きずる様に影ばかりが濃く長く伸び
地面に打ち捨てられた様に朽ち果てている
その影を踏んで歩く
踏みつける様にして
蒲公英は黄色くて葉は濃い緑
空は青くて太陽は橙色に脹らんで
影は黒く色のあるものは皆ハッキリと
ドブ川の散歩道をうつくしくいろどり
猥褻な生命をかがやかしくおおっぴらにひけらかしながら
何か知っているのよ わたしのこと
このままいけばどこにたどりつくのか
いまさらさわいだってもうおそい
丁寧な手紙はちがった道へ誘導している
間違っていないのはよくわかる
蒲公英の様に健気なら
それだけでも価値があるもの
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選出作品
作品 - 20100115_888_4085p
- [佳] 蒲公英の咲く散歩道 - はなび (2010-01)
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蒲公英の咲く散歩道
はなび