選出作品

作品 - 20091225_451_4043p

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星かごのなかで

  ひろかわ文緒


 (Daybreak)
雨あがりの丘のうえ
土の息づかいさえもうるさく
雲の割れ目から、かすんだ町に
降り立つひかりを
ゆびおり数えた
やがて立ちなおり路をかえりながら
数えたあとの汚れたゆびのまま
伸ばしかけの髪を摘む
ぽろぽろと
星の抜け殻がすべり落ちる

 (Early morning)
忘れていた
小学校の先生はとっくにおなじ世界にいないこと
わたしは机の奥
先生から貰った本を見つけてそれから燃やす
幼い作文や古い新聞も一緒に燃やす
燐寸をつけ焔をともすと
文字はしろくふわりと舞ったり
くろくゆったり沈んだりしながら遊んで
凍る間際の水のように
たのしい

 (Daylight)
軒先の夥しい緑色を刈る
ささやかな花びらのついたものも容赦なくひき抜く
あたらしい軍手はかたく
不乱に緑色を積みかさねている
するとどこからやってきたのか
毛艶のよい三毛猫がふくらはぎにすり寄ってきた
可愛らしい中肉)中肉を爪でなぞる)背に一筋)砂の混じった線がはいる)隣に座り)庭の隅に植わったパンジーの)花びらの揺れるの(を)じっと見ている)
ほぐれた土の面からてらてらしたみみずのあらわれ
わたしは驚きもせず
ほれ、と、少し遠くへ投げた
三毛猫はしっぽを忘れて駆けてゆく
脚から透きとおり消え、なんと淡いのだろう
パンジーがわたしを観察している

 (A swing boat)
星のはじまりもおわりもまだ覚束ないまま、誤った腕をすり抜けてばかりいる

 (Wintering)
目覚めるといつも冬で
こども達より先に霜を踏みあるく
部屋にもどると
すっかり冷えてしまい再び毛布にくるまる
霜が溶け、ランドセルが路を彩る頃には
すでに眠りについて
だからわたし、こども達のことをあまり知らない

 (On time)
丘のうえには仄ぐらい雲が町を押し潰そうとしている
郵便配達夫は口笛を吹きながら、そのひずみに身を投じようと
たくさんの夜明けを抱え走りさってゆく