初冬のつめたい空気の
魚群の鱗のかがやく外で
仰ぐ山に 冠雪している
化粧に引きよせられ
風に申し付けられたように窓を開ければ
二階からは眼窩のように深く
よわよわしい木立のもとめる
大地のぬくもりの身代りが喪われている
(木の孫らは行方不明である と聞いた)
その名残の川はいつからか涸れていた
(埋め立てられたのだ)
その後に私は生まれた
(つまり 川はまだ埋まっている)
(川の墓地)
その後に
そう「その後に」私は生まれた
孫らが行方不明であるのか
あるいはその逆か
今となってはただのひとつぶの
土さえ運ぶことのない
寂々とした川の上に積もる
砂のように乾いた雪を
自動車の排気を纏う蛇として
歓喜のこえをあげる
風が運ぶ
選出作品
作品 - 20091030_794_3896p
- [佳] 風 - 田中智章 (2009-10)
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風
田中智章