嵐の夕暮れ、鉄塔へ登った。
雨は、剥がれ落ちる神様の体。
百億個の小さい海。
天の花園へするする伸びる時間の、
とがった先端で私は、手を振っている。
こんにちは。丸井のビルの赤いマーク。
こんにちは。『北園克衛詩集』。
私もしばらくは人間でいてみます。
こうして高いところでは、
嵐は生きている。嵐は、言葉も知らないのに、
大きな声で一生懸命に何か言うので、
私はただ、はためいている。
引きちぎれるほどの幸せです。
生きていて、本当に楽しいこと、何もないよと、
自信持って元気よく言えます。
シンデレラのガラスの靴も、
ひとの魂の破片も、ハンバーガーの包み紙も、
ボーイングの旅客機も空を飛んでいく。
昨日の私と明日の私が飛ばされていく。
昨日私はいなかった、明日私はもういない。
今そこに光る、稲妻のように孤立した、
無垢の今日、今日の私。
私は、人から離れて、空を行く記憶となって、
誰とも何ともつかないものを、
熱烈に愛しています。
*『北園克衛詩集』
朝(詩集『火の菫』より)
冬が手套をはく
銀行の花崗岩に木の枝と小鳥が写る
怠け好きな友よ
お
人間でゐよういつまでも
午前十時の街を歩く
太陽が歯を磨いてゐる
選出作品
作品 - 20090530_755_3552p
- [佳] 鉄塔に登る - 右肩 (2009-05)
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鉄塔に登る
右肩