黄色のひかりがぶれる部屋で、
わたしは
左足で眠るかさぶたからゆくらゆくら
透明?
に、なりつつ
もう、なくなった筈の
/もしくは、見えないだけかもしれない
水掻きに脈を聞く。
心臓はどこかで忘れてきているから、
わたしは嘘つきになる。
*
びちびちびちびちびちびち
部屋のそこかしこで
水槽に入り忘れた様々が
跳躍をしている
お気に入り/かもしれなかった漫画から
感動的なシーンばかりが
ばらばらと落ちていくのは
なんだか、
酷く愉快なことに思えた
わたしは
口をぱくぱくとさせながら
しかし、
わたしにえらは無い。
**>酸素だけで生きてたら、早死にするらしいよ。
つまり、
わたしが歩けなくなることや
肺を吐き出す必要性は
大いにあるということ
、ですね?
***
母は動くのが嫌いだと言い
今は、髪の毛を振り乱しながら
めかぶになりきっている
/まだ言葉を交わせた日に、彼女は決して
めかぶになりたい訳ではなかったのだが
今の彼女は立派にめかぶをしているというのだから
わたしは少し、驚いている。
妹は
この際だから自由になりたい、と言い
何かの映画の影響で
可愛らしい熱帯魚に変貌した後
どこか遠い/わたしの知らない場所で
通りすがりのうみねこに
いともあっさりと
啄ばまれたのだという
/きっとそんなものだろう、
彼女はけばけばしかったし。
****
かさぶたが甘酸っぱく
くゆらせる。虚ろに、するような
錯覚にも似た
わたしはきっと溺れるだろう、それはつまり最初からえらなどある筈も無く、水掻きですら想像にのみ生きているものへと変えてしまう、透/け/る、母はやはり動かない、妹が抱く願望をわたしは否定する、かさぶたは眠らない、本当は眠りなどしない、その下で薄く張った膜が震えている、千切れる音、さりげなく香る、一週間目の絆創膏、わたしの小指は地を踏めない、呼吸が見つからない。
しかし、ここが海でないことを
わたしは
最初から知っている。
選出作品
作品 - 20090331_773_3428p
- [優] 海想癖 - 苺蝶 梓 (2009-03)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
海想癖
苺蝶 梓