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苺蝶 梓

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


海想癖

  苺蝶 梓


黄色のひかりがぶれる部屋で、
わたしは
左足で眠るかさぶたからゆくらゆくら
透明?
に、なりつつ
もう、なくなった筈の
 /もしくは、見えないだけかもしれない
水掻きに脈を聞く。
心臓はどこかで忘れてきているから、
わたしは嘘つきになる。





びちびちびちびちびちびち

部屋のそこかしこで
水槽に入り忘れた様々が
跳躍をしている

お気に入り/かもしれなかった漫画から
感動的なシーンばかりが
ばらばらと落ちていくのは
なんだか、
酷く愉快なことに思えた


わたしは
口をぱくぱくとさせながら
 しかし、
  わたしにえらは無い。


**


>酸素だけで生きてたら、早死にするらしいよ。

つまり、
わたしが歩けなくなることや
肺を吐き出す必要性は
大いにあるということ

、ですね?


***


母は動くのが嫌いだと言い
今は、髪の毛を振り乱しながら
めかぶになりきっている
 /まだ言葉を交わせた日に、彼女は決して
   めかぶになりたい訳ではなかったのだが
    今の彼女は立派にめかぶをしているというのだから
     わたしは少し、驚いている。


妹は
この際だから自由になりたい、と言い
何かの映画の影響で
可愛らしい熱帯魚に変貌した後
どこか遠い/わたしの知らない場所で
通りすがりのうみねこに
いともあっさりと
啄ばまれたのだという
 /きっとそんなものだろう、
   彼女はけばけばしかったし。


****


かさぶたが甘酸っぱく
くゆらせる。虚ろに、するような
錯覚にも似た


わたしはきっと溺れるだろう、それはつまり最初からえらなどある筈も無く、水掻きですら想像にのみ生きているものへと変えてしまう、透/け/る、母はやはり動かない、妹が抱く願望をわたしは否定する、かさぶたは眠らない、本当は眠りなどしない、その下で薄く張った膜が震えている、千切れる音、さりげなく香る、一週間目の絆創膏、わたしの小指は地を踏めない、呼吸が見つからない。


しかし、ここが海でないことを
わたしは
最初から知っている。

文学極道

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