選出作品

作品 - 20090112_492_3249p

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冬の散歩道

  ゆえづ

色づいてゆく君は愛らしい
柊の爪が乾いた風を奏でる頃
二人して唇の端を切った
裏町の寂れた小路では
物憂げに軋る看板が私達を祝福していた
めくれあがる薄っぺらい肌の
所々陥没している様まで
でこぼこと哀れな私の胸そっくりで
骨の奥がくすりと笑う
力まかせに蹴り飛ばしたら
また一つかさぶたが剥げ落ちた

冬枯れの道をゆく私達は十六
ジーンズから放り出した脚が粉を吹いていた
いたずらに破かれた膝丈の自我と
ブーツの中で遊んだ踵

巨大な灰色の怪物が見える
町外れにひっそりと建つ博物館は
そう君みたいで好きだった
円形コートを囲うのっぺりとした打ち放しの壁は
空を飲み込む大きな口となり
外界の一切を阻んで吠える
頭上にぽっかり空いたインディゴブルー
くぐもった溜め息だけが響く
ずうんと重低音の海

明け方の遊歩道で君は町を出たいのだと言った
どこにも居場所がないのだと
あるよと言いかけたその時
吹き抜けた突風に驚いた君の羽根のような上着のケープは
思わず息を飲むほどの白を空高く翻し
置いてかないで
私は咄嗟に君の腕をつかんだ

まだるい眠気のように溶け残る雪を踏み分け
君の手を握りながら入ってゆく
しゃらしゃらと内気な寝息を立てる森
鳴けないミミズクが
口をぱっくりと開いたまま私達を見ている
声のない赤が突き刺さる
ねえ君はそのように叫んでいたの

くしゃみをする間に朝がきて
柊を見下ろす歩道橋から
揃いのピルケースをせえので放り投げると
パステルの錠剤が逆光の中
君の笑い声と飛び散った
私は泣くのだけれど
また指切りをして泣くのだけれど