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作品 - 20081217_252_3214p

  • [佳]  影の樹 - 殿岡秀秋  (2008-12)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


影の樹

  殿岡秀秋

小学校の卒業写真を見る
同じクラスの子が並ぶ背後に
巨大な楠木が枝葉を茂らせている
子どもたちの顔は半分くらい覚えているが
この巨木は
ぼくの記憶の印画紙に焼きついていない

楠木は校庭の中央に立っている
校門と教室の往復のたびに
その近くを通ったはずなのに
眼の前に大きく
立つものが見えていなかった

校庭の隅の
ジャングルジムで
銀杏が葉を落とし
秋雨に濡れているのを
長靴で踏みしめながら
近づく冬の気配を見つめていた

空に白い二重線を引く飛行機雲も
遠くに小さく突きでている
二等辺三角形の富士山も
校舎の屋上から見えた

校庭の真ん中に
窪みのある幹と
枝の肘を曲げて
無数の葉で陽を浴びている楠木は
半世紀を経て写真の中に
初めて見た

幼いころは
いつも下を向いて
周囲を見ないようにしていた
乱暴な男の子
授業中にぼくを指すかもしれない教師
死や病の像を引きずりだす映画や漫画

目の前に大きく立つものを
見たくなかった
弱すぎてこの世に生きていけない
とぼくはおもった

今は目の前に立つ
大きなものが
見えているだろうか

肌は楠木の幹のように彫りこまれ
神経は茂る葉のように揺れ
感情は風にしなう枝となり
ぼくの記憶を根にして立つ樹が
ぼくを見おろしているのを

文学極道

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