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作品 - 20081213_218_3210p

  • [佳]  記憶 - ミドリ  (2008-12)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


記憶

  ミドリ

腕に雪白のネコを抱いている男の子は
黒縁の眼鏡をかけた
青白い顔をした青年だった
マンションの廊下から出てきた彼は
5階の手摺からネコを中庭に投げ捨てる
まるでトートバックを
ポンと放り投げるように

ネコは空中をくるくると回り
芝生の上に潰れるように落ちた
雪が
とても多く降った夜だった

ねぇ
心の底で思ったことがある?
何をさ
憎しみから誰かを
殺したいと思ったこと・・
あぁ 多分 あるさ
きっと何度だってね
何度も? じゃ
そのうちの一人に
あたしも入ってる?
彼は少し目をしかめて
わからないと言った
12月15日の朝に
彼は通勤電車に飛び込だ
もう7年前の話

きっと誰の身の上にも
命が少し
軽く感じられる瞬間があるんだと思うの
確かに
あたしにだってあった

ビールの栓を抜く音
グラスの触れ合う音
マンションで槙村くんがTVのチャンネルを
パチパチとかえる
転勤が決まった
来年の4月だよ
辞令が出たの?
それからあたしは黙って炬燵に足を
深く突っ込んだ
槙村くんも
何も言わずにサッカー中継を観てる
15分たって
ハーフタイムに入った時
槙村くんはあたしの肩を抱き寄せ
あたしにキスしようとした
その腕を強く押し返したあたしに 槙村くんは
傍にあった新聞紙を 投げつけた
テーブルの湯飲みがパチンと激しくこぼれ
あぁ 全部
きっと全部終わっちゃったって
その時 強く思った 
時々 そんな風に思う
君もあたしも独りで
独りと独りだから一緒にはなれないのって
だから 全部終わりなのって

何日も
雨が降り止まない梅雨の午後に
一匹のネコが
あたしの部屋のドアをノックした
彼は雪白のあのネコで
7年前にあたしを見たっていった
ヴェロアを張ったリビングの椅子に
彼は深く腰を掛けると
葉巻に火をつけた
なんだよ
この家はお茶も出ないのか?
彼はエラそうにそういった
出て行って下さい! (><)
あたしは彼を睨み付けてそういうと
眩しげに眉間に皺を寄せ
悪くない味だ そういって
指先につまんだ葉巻を彼は見つめる

ねぇ 出ていって
警察呼ぶわよ?
雪白のネコは足を組みかえ 
あたしにこういった
お前 昔とズイブン変わったよな
どこがよ?
髪型とかマスカラとかシャンプーの種類とか
そのへん
当たっり前じゃない!
7年もあたしを放っておいて 何よ!
ふいをついて出た言葉にあたし 涙が止まらなかった
時間が今 あたしに優しく寄り添っている
そんな気がしたから
だからあたしは泣きながら彼に
出て行って!って 叫んでた
胸が激しく引き裂かれるほどに強く
彼に向って叫んでた

お願いだから 出て行って・・

文学極道

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