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作品 - 20081128_870_3171p

  • [優]  仔鹿 - りす  (2008-11)

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仔鹿

  りす

引き摺っていた仔鹿が抵抗するのだ
細い前脚を踏んばって前へ
前へ前へと歩み求める
張り切った臀部の若い筋肉
いま、一本の針があれば
仔鹿の表皮は破裂する
裂けた勢いで生まれた風は
想像力の遥か前方へ
千切れた仔鹿を運ぶ動力だろう、破れ、
破ってくれ、破れ、と
アスファルトを掻き毟る耳障りな命よ
仔鹿よ 
私はまだ迷っている
いま、一本の縄だけが
仔鹿と私を繋いでいる
ある少々の手応えの為に
私はこいつの首に縄をかけ
どこへでも引き摺って歩いた
これは何という動物かと
人々は尋ねたが
見ればわかる
という答えが逆に
問いかけになるのかいつも
人々の顔は不満そうだ
そんなとき私は
仔鹿を偽善的に道から抱き上げて
足早に街を去るのだ
仔鹿の名前は
アー、とか 
ウー、とか
およそ価値のない反射の集合で
恥ずかしい結合を実現している
恥ずかしくて走り出したい
そうなんだろう、仔鹿よ
前へ前へと逃げたい仔鹿よ
あいにく
そっちは後ろなのだ
さいわい
仔鹿が重荷なのか私が重荷なのか
誰にもわからない
したがって
どちらが前なのか後ろなのか
決める自由が残されている
おや、角が、と言って
仔鹿の頭を指さす他人がいて
その一本の指によって
私の蒙昧は破られ
破れ目から時間が鋭く流れ込む
角は何度も生えかわるが
仔鹿はいつまでも仔鹿のままだ
角は生えかわるたびに違う角度を持ち
何かをしきりに狙っているようだが
狙っているという構えが
仔鹿を仔鹿のままに留め置くのか
いつの日か仔鹿はその角で
私を破裂させるのだろうか
仔鹿よ、お前もまだ迷っているのか
私はいつまでもいつまでも喋っていたい
この少々の手応えがあるうちは
お前と私は離れられない
お前が抵抗を続ければ
お互いに消耗もするが
逞しい筋肉もつくだろう
筋力と想像力を天秤にかけて
どちらの膨張に賭けるべきなのか
そんな勇ましい決断を
私とお前の軽いユニットで分かちあう頃には
私の頭にも一本の角が生えて他人が
おや、角が、と指をさしてくれたらいいと思う