二十三夜
まだ生あたたかい人型の栞が、投射された光の帯の中を漂っていた。蝉の羽
ばたきの空き間をくぐり抜ける自由中性子が運動量を失って120億年経った
朝のことである。
また見えてる。
なにが?−永遠さ。
太陽と番って
煮え滾る海のこと。(*1)
誰も気づかぬように
じっと見守る魂よ、
そっと打ち明けようか
欠落した夜と
炎と化した白昼のことを。(*2)
お前らが沈み込む
人の世の欲目から
まわれ右の浮かれ騒ぎから
お前はおさらばして
揺れる炎に身をまかせるのだ。(*3)
あの地平線から
お前だけしかいない、
サテンの燠火よ、
ただ黙々と身構えて
音をあげもせず燃え続けるのは。(*4)
俺は生れ出るのだ
絶望の空の裂け目から、
二度と陽は昇るまい。
くたびれ儲けの銭失い、
何処も彼処も地雷は踏まれたまま。(*5)
Nous ne sommes pas au monde.(*6)
また見えてる。
何が?−永遠さ。
太陽と番って
煮え滾る海のこと。(*7)
まだ生あたたかい人型の栞が、投射された光の帯の中を漂っていた。同一の
正六面体が無限大の空間にぎっしり詰まっていた。同一の立方体の数は無限
数だったか。同一の立方体の数は、その辺の長さが増せば数は減り、辺の長
さが減れば数は殖えた。無限数が増減する。無限数の絶対的安定が崩れた朝
のことである。
☆註解☆☆☆☆☆
(*1)Arthur Rimboud(アルチュール・ランボー)の詩[L’Eternite] (『永遠』)
の第1連。訳詩は吉井。原詩は以下の通り。
Elle est retrouvee.
Quoi? ― L’Eternite.
C’est la mer allee
Avec le soleil.
(*2)第2連
Ame sentinelle,
Murmurons l’aveu
De la nuit si nulle
Et du jour en feu.
(*3)第3連
Des humains suffrages,
Des communs elans
La tu te degages
Et voles selon.
(*4)第4連
Puisque de vous seules,
Braises de satin,
Le Devoir s’exhale
Sans qu’on dise:enfin.
(*5)第5連
La pas d’esperance,
Nul orietur.
Science avec patience,
Le supplice est sur.
(*6) [Une saison en enfer] (Delires-?) 『地獄の一季節』(「錯乱-?)からの引 用。訳すと“俺
たちはこの世にいない。”
(*7)第6連
Elle est retrouvee.
Quoi? ‐L’Eternite.
C’est la mer allee
Avec le soleil.
選出作品
作品 - 20081118_679_3156p
- [佳] 八十八夜語り ー秋小寒ー - 吉井 (2008-11)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
八十八夜語り ー秋小寒ー
吉井