選出作品

作品 - 20081027_140_3101p

  • [佳]  花巻 - 5or6  (2008-10)

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花巻

  5or6

紅に覆われた月が揺らめき
波紋が湖に広がります
照らされた柳梅は顔を下げ
庭園に慎ましく咲いています

そこに俯いた少女を細い葉のような指で
燃えるような思いと共に気高い少年が唇を重ね
まだ蕾の花を守るように抱きしめていました

紫紺色の着物の帯を緩めて
風はほんの少し強く
紅く
残香に少女は溜息を落とします
体に満ちた餘寒に堪えながら
舌先で決意を紡ぎ
少年は平打ちかんざしを抜いて
髪を
うなじを
かなしみを撫でました

何回も繰り返す
名前の復唱に
少年の思いが
届いた気がしました

少女は優しく
その瞳を見つめて頷きます

そして
二人
湖に消えていきます

ほろほろと
ほろほろと

渦のなかに消えていきます

しなだれた枝から離れた梅の花と共に

ほろほろと
ほろほろと

桃色の渦のなかに消えていくのでした