紅に覆われた月が揺らめき
波紋が湖に広がります
照らされた柳梅は顔を下げ
庭園に慎ましく咲いています
そこに俯いた少女を細い葉のような指で
燃えるような思いと共に気高い少年が唇を重ね
まだ蕾の花を守るように抱きしめていました
紫紺色の着物の帯を緩めて
風はほんの少し強く
紅く
残香に少女は溜息を落とします
体に満ちた餘寒に堪えながら
舌先で決意を紡ぎ
少年は平打ちかんざしを抜いて
髪を
うなじを
かなしみを撫でました
何回も繰り返す
名前の復唱に
少年の思いが
届いた気がしました
少女は優しく
その瞳を見つめて頷きます
そして
二人
湖に消えていきます
ほろほろと
ほろほろと
渦のなかに消えていきます
しなだれた枝から離れた梅の花と共に
ほろほろと
ほろほろと
桃色の渦のなかに消えていくのでした
選出作品
作品 - 20081027_140_3101p
- [佳] 花巻 - 5or6 (2008-10)
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花巻
5or6