風が、風が吹いているのだ、
と不意につぶやいたなら
きみは風たちを
一歩遅れて知ったというのか
たしかに、
風は吹いているのであった
台所の窓をあけると
白い物体が
滑って流しにおちたのだった
きみはもう風にのって
風が吹いているのだという手紙を
風たちの色の自転車で
風が吹いているのだという手紙を
運んでくることに
まっすぐな〈嫌悪〉をむける術を
身につけてい たから
(細かくふるえながら
ぼろきれと
なっていく左手
気が違ってしまった老いた犬と発
情、悪い情熱が次の(/)熱を呼びよせる三
度目の乾いた性交のあと、風の吹かない時間
を逆さまに思い出して、その左の手で弱々し
くぼくが作り上げた北斗七星の影絵に、きみ
が、蛇口から降り注ぐ、愛とか哀しみとかの
透明な水と砂まじりの海水とを注いでくれた
(そっと
置いていかれる
裸子植物の
小さな種子
歩くことと息を継ぐことを
同じ
低さの営みとする
その習俗に触れ
もうずっとぼくらは下手になってしまった
うっすらくぐもった
視界の内奥に
とどまっている
ひらかない
風色の草原
(むきだしの生、半裸の棕櫚
遺体の整列した
安置(/息)のための体育館で
いつまでも鉛筆を削りつづける
百草のような
ぼくときみとの
おわらない会議が開かれ
そこにも、風
たとえ
/ば
柔らかい夕刻の腐臭や
オールドバザールで
少年たちの齧る
フルーツトマトは
風たちの色に乗って
やってくるということ
それを
信じてきたのだから
「どうか恐れずに」
風たちの
吹いた、
たしかに吹いて
いるの、であった
選出作品
作品 - 20080730_630_2927p
- [佳] 風底 - DNA (2008-07)
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風底
DNA