選出作品

作品 - 20080507_828_2750p

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砂の埋葬。

  紅魚


たいせつなものは
いつだって砂の中。
積み上げても積み上げても
ほろほろと崩れてしまう蛍光性の粒子の奥、
そろそろとうずめてしまいたくなります。
波打ち遠く、
ひっそりとひっそりと隠したその隣に
あたしもそうっと横たわって、
くるぶしを砂が掠める感覚に、
身じろぎしたり、してみたいと思うのです。

しゃがみ込んで、
あなたのつま先に、砂を、かける。
ぱらぱらと散るそれは、
大半を風に流されながら、
それでも、
辿り着いた幾粒かは
カチリとした長石のような爪に弾かれて、
きっと、
花火のように色彩を変えてゆきます。

(うごか、ないで、ね、
  こぼれちゃう、よ。)
あたしの要求に、
あなたは応えてくれるでしょうか。
くすぐったさをこらえて、
じっとしていてくれる、かしら。
いいえ、いいえ、
きっと、
無理だよ、って、
口許にしわ刻んで、笑うんでしょう。
あたしは、
その、やらかい唇から滑り落ちた、

  む。

   り。
  だ。

   よ。

の、優しい響きのひとつひとつにも、
丁寧に、丁寧に、
祈るよに、
砂を、かけてゆきます。

(あたし、
 ほんとうのさいわいを
 ねがったり、しません。
  あなたとの、あんねい。
  それだけが、ほしい)

ぽつぽつと散らばった、
小さくてまろやかな塊と、
苦労して、どうにかうずめた
あなたのつま先、と。

陽光と不可思議な風紋に彩られた、
白い一群は、
さらさらと静かに風化してゆく、
この上なくやわらかな、
あなたの、墓所。
つまんだ砂を
はらはらと零し続けるあたしは、
その忠実な墓守りに、なります。

波の音、波の音、

波の、音。

     内側に、あなた、内包した、
 温かな、砂に、寄り添い、ながら、

潮騒を子守歌に、
いつしかあたしも、
さらさら、と、
さらさらと風化、する
砂の眠りにつくのです。