八月が来て最初の雨は
いつも季節はずれにひどくつめたい
あなたをのせた客船は
すべるように岸からはなれていった
はなやかな号砲も
色鮮やかな紙テープの用意もなく
みずからの影にひきずられるようにして
しずかに岸からはなれていった
たとえば愛が終わるとき
生牡蠣色に塗りつぶされた心が
果たせぬ航海の夢を見送るとしても
ますますひろがってゆくばかりの距りの
そのとりかえしのつかなさに比例して
雨脚はいよいよ強さをましてくるのだ
どのようなちからがあなたを去らせたにせよ
ぼくが泣きたくなるのは
冷めない微熱のその悩ましさのせいではない
ぼくが泣きたくなるのは
この海景のしずけさのせいだ
ファインダー越しに覗いたぼくらの場所は
HereでもThereでもEverywhereでもない
パンフォーカスされた静止画のなかで
雨だけがかわらずに降りつづいている
乾いた八月の雨だけが
いつまでもかわらずに降りつづいている
選出作品
作品 - 20080429_579_2724p
- [佳] (無題) - んなこたーない (2008-04)
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(無題)
んなこたーない