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作品 - 20071203_914_2481p

  • [優]  無題 - 凪葉  (2007-12)

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無題

  凪葉

取り残された時間は今日に置き忘れたふりをする
そうしてそのまま、風化を見届けることもなく
長袖の上にもう一枚服を重ねて
くりかえしの中のひとつになっていって
物干し竿に真新しい記憶を干しては生まれかわるならと
朝に思いを募らせていく

たぐりよせた風は途方もない年月を覚えていて
よく晴れた雲ひとつない空にわたしを広げていくから
わたしは、広げられたわたしを眺めながら
やがて思いだされていく懐かしさをひとつひとつ手に取り
無言のまま風へと繋げていく

それは、遠い昔のことのようで
鮮やかな景色の輪郭に触れながらわたしは、段々とわたしをわからなくなる
ただ空が、空は、その青さでえいえんに瞳を奪ってしまうから
ぼんやりと見つめることはもうできないのだと
わたしはわたしをわからないまま足を前に
いつかもそうやって足を、前に、だそうとしていた

伸ばしていた四指の爪を切り落としながら
やさしさ、みたいに曖昧なものを携えていく道にも
色褪せることのない青は染みて、染みていくから
もう、どうすることもできないこと、知っているそれでも
渡り鳥の指す方向へ消えていく今を見送る眼差しだけは
たいせつにして、いきたいと

雲ひとつない空から落ちてくる青と
気まぐれな雲の白と
暮れていくことを知りながらに目をあけて、目をとじて
すべては、笑いながら傷ついていくこと
その青さで、何もかも呑みこんで
なにも、残りはしないから
くりかえしは終わらない
だからきっと、きっとね
明日のわたしは今日のわたしを、覚えてはいない