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作品 - 20071027_999_2409p

  • [優]  深海 - 凪葉  (2007-10)  ~

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深海

  凪葉

なまぬるい水の中で溶けていくような、そんな感覚をいつも感じながら落ちていく。 そこはふかく、吸えない空気を探すことを止めたのはもうずっとむかしのことで、時折射しこめる薄日に眩しさを感じ手で覆う、そんなことを繰り返していると、なにも見えないことがそのうちに、見えてくるような錯覚に陥る。
光はいつも、違う角度から射し込んでいた。
 
 
愛、を知っていた。
愛すること、愛されること、
コップに入れたココアの粉を溶かすようにゆっくりと、溶けていった季節の数は今も続き、入れすぎた砂糖は、えいえんの甘さのように、感覚は、
だんだんと侵されてゆく。
愛を知っていると、変わらないまま変わった愛に別れを告げた、とおいむかしのことのように、
夜空の星をひとり数えていたけれど、すべてを数えることは、いつもできなかった。
 
 
毎日のように雨が降っていた。
止むこともあるけれど、スコールのように激しいのだって珍しいものじゃなかった。
溢れかえったはずの海は、いつからか凪を手にし荒波も、徐々に和らいでゆき、
そこに生まれた深海に届く、僅かな光もじきになくなるのだろう、と、雨の降る、空を見上げた。 季節はいつも変わらないまま。時間だけは確実に、流れていった。
 
 
ふかくふかく染みこんだ日々にまでとどいていきそうなくらいに、響く音があった。 それは風の音で、雨の音で、鳥のさえずり、
重力にあらがうように太陽に向かう草木だった。 けれど、
地球のそこのように終わりがあるわけではなく、水嵩が増えていくまま深海は深さを増し、
命動のような響きもやがては鎮まるのだと、灰色の瞳をうかべて視線をまっすぐに、空白を見つめ続けていた。
 
 
風の静けさを手にいれた朝も、外は相変わらずに雨が降り、続いていた気だるさは重力へと変わり、はきだした言葉は氾濫をくりかえしながらしゃぼん玉のように消えていってしまったので、
わたしの中の質量が無くなりそうなのだと、機織りのように延々と続く言葉を紡ぎながら、
沈んでゆくわたし、を、止めることができないまま雨はいつまでも降り続き、
もはや海は、わたしから溢れそうだった。