選出作品

作品 - 20070404_410_1973p

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公園跡地

  流離いジロウ



個体発生は、けいとう発生をくり返す。行く方のわからない高速道路の、その
高架下で私は、意外な近さの噴水を見ている。幾何学的な、暗がりにある装置
と、周りにならぶオブジェの群。水の湧きあがりに息をのむ私は、都市の片隅
のこの空き地から、どうしてか動くことが出来ない。

幼いとき、私は黒点で、長じてからは日時計になった。等間隔にある木製のベ
ンチの、そのひとつに位置どった私は、意味もない頭上の交通と、ビル風の衰
弱とを交互に比べながら、飛沫の揚力と、光りの切断面について考えを巡らせ
ている。

貴方は誰なのか 貴方では
無い
とされる私は
知っている他人であるのか
それとも 奪われた
あまたの夢の痕跡なのか

都市の地図を手もとに拡げると、色のパターンに眩暈がする。覚えのない地名
が散在し、それらをひとつずつ結び付けていく私は、ひとの生きざまと対立に
ついて、ときに言葉を失くすらしい。

彼方では重機がこだまし、日に晒された街路の、午後二時の喧騒の何処かには、
面白くもない誕生とかげがある。くり返されるなぞ掛けの営為。私はしだいに
下降する反射板よろしく、ひくく騒ぎだす微生物や、塞ぎこんだ原始の昆虫の、
呼びあう声の静まりを聞きとる。乱雑に置き捨てられた引き出しの玩具と、入
れ子構造のじかんの内奥に、火竜のえら骨が隠されている。

噴水
その輝きを
いうことが出来るか その怖れのような 
石の眠りに触れたことがあったか
貴方は
大規模に肩をふるわせ
ひきしまった青空のただ中で
ちっぽけな水の器官が 果てから
中央へ
そらから
波紋の底へと わたされている

翼竜が、奇怪な焔を吹きだす前に、コンクリートの地面でじたばたする。傷だ
らけの爪が滑り、宙をさ迷う仕草。それから、漏れかけた焔を一旦、吸いもど
し、沈黙のあとで激しくぶちまける。高速道路の至るところでは、自動車がエ
ンストしている。うき雲が流れ、繭から、大きな火の手があがる。

何時か見た、たしかな慄き。私と、高架とを繋ぐいっぽんの紐が、生きざまの
狂おしい地図の折り目で、午後四時を等しく暗示する。水の気配がした。意外
な勢いで羽虫たちが飛び立ち、石のくずれる匂いがする。

貴方に触れてみる 貴方に
かかわりの無い
発生と 熱
磨かれたのど笛は
動けない私をとうめいにしていく
貴方は誰なのか 私は
不吉な 破線であるのか
らせんの文字が見えづらく上昇し
墜落する
公園跡地を