わたしには子供の頃にニナという
アメリカ人とニホン人のハーフの友人がいました
目の色はつやのない青灰色に曇っていて
虹彩の形が黒くくっきりとしていました
ある日ふたりでシーソー遊びをしていると
日が暮れて
公園の木の上にはたくさんのカラスが舞い戻ってきました
自転車に乗ったひとが大勢やってきて
彼らはわたしたちをじろじろと見つめて
肩で息をしていました
ガラスに夜のにおいが沁み込んでいました
わたしたちの手は
鋭いガラスの破片を握り締めていました
わたしたちはただ茫然と
たくさんのひとの前に立ち尽くしていました
「帰ろうっ」とニナが言いました
すると
大勢のひとの胸が突然戦慄きはじめて
わたしたちを捕まえて
殺そうと、
機会を窺っていました
さらに多くの自転車が
3本しかない公園の電灯に照らされながら
わたしたちの前に停まりました
ニナの顔が水中でのように青白く膨らんで
脱脂綿に血が滲んでゆくように
わたしたちの視界からぼやけてゆきました
「やめてぇ!」とわたしは叫び声を上げました
誰かの首筋に鎖が耀いていました
ニナはその鎖を手繰り寄せるとそのひとに
そっと微笑みかけました
ニナはまるで天使のようでした
やがて彼女は目を瞑ると
アスファルトの暗い淵へと
静かな灰となって消えてゆきました
選出作品
作品 - 20060621_671_1343p
- [佳] ニナ - 樫やすお (2006-06)
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ニナ
樫やすお