―切り裂かれる烏の血が
空一面に固まり夕焼けとなる
解るだろう? そうだ、世界の終わりが訪れたのだ
ああ しかしこの赤銅の風景
なんと滑らかに 今日を導いて来たのだろう!
敷かれた線通りに遂に
訪れたのだ 終末が
劇場を出てからも未だに 劇中、男優の叫んだ台詞が
耳の中で響き続ける。
青信号の音楽は 叫びを掻き消すことなく途絶えて
横断歩道の向こう側 無邪気に手をひかれ歩く幼児の
ハシャギ声も遥か遠い。
私は歩道に沿う街路樹を見て いつも通りの今日という日を
その風景の中、噛み締める
。
一枚一枚、陽を透かし眩い 無骨な茶を押す花弁の淡紅
支える背景と白じむ空へ 雲は輪郭を無くして溶け入る
烏が枝の茶に分け入り止まると
子供はハシャギをカン高くした
世界が終わる日の風景は
今日と同じであるに違いない。
何の伏線もあるもんか
誰かが叫ぶことなどなしに
突然終末は訪れる
滑らかに赤銅に染まりなどせず 解る間も無く訪れるんだ
いつも通りに沿う今日を
噛み締める風景のその中で
信号を渡るとすれ違い様
―バイバイ。 カン高い声が聞こえた
振り返り見れば、母に手を引かれ
はしゃぎは信号の音楽に混ざる。
街路樹が風に擦れ、散り行き音を増やす花弁
耳から消えた劇の叫びに
私は今来る終末を思う。
眼前桜舞うこの瞬間 不安は切り裂かれずに固まり
飛び立って行く烏の羽音が
音を溢し、
耳の中に響いていく
選出作品
作品 - 20060421_275_1188p
- [優] 桜舞う - 平川綾真智 (2006-04)
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桜舞う
平川綾真智