選出作品

作品 - 20060307_070_1024p

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三月の晴れた日に

  リリィ

爪が伸びています
一つの花を掴みます
揺らぐ蜃気楼がそれを阻みます
肩が気に入りません
掴むと硬い骨が気に入りません
ですから
関節を溶かす夢を見るのです

この地にはいつ夏が来るのでしょう
桜の花びらがベランダに干した布団に焼き付いて離れません

向こうに梅が散っています
昨夜の雨で乱れた丸く白い花びらを
網戸越しに眺めるのです

春がやって来たのでしょう
車の排気ガスの何処にも
花火の煙は見当たりません

貴方は
向日葵の上に手を伸ばしました
それを微笑ましく見ていたはずなのに
思い返すと切なさと空しさが瞼にのし掛かります

三月の日差しは
貴方の入った小さな箱を
仄かに暖かく照らすのです