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作品 - 20060213_743_967p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


「ラフ・テフ」という場所

  ミドリ



「ラフ・テフ」では みんな仕事を持っている

トカゲはアリンコを捕まえて
せっせと 袋詰めにする作業をしていたし
オウムはカフェバーで
カタツムリの背中にチョンと腰をかけ
一心不乱にジャズピアノを弾いていた

カナリナの店長が
厳しく従業員の動きに目を配っていて
ウエイトレスの文鳥が トナカイの紳士に粗相をすると
慌てて飛んで行って 一緒に頭を下げていた

シャム猫は海の写真ばかり撮っていたが
誰もそれについて咎めなかった

テリア犬は 僕のスニーカーをギュッと両足で押さえ込んで
「ここを離れないように」と
そんな目で彼女は訴えていた

太陽が西の方へ徐々に傾いていくと
芝生で被われた大きな施設も
周りは広大な 砂漠に囲まれていることが分かった

「日曜日はもう終わるのかな?」

テリア犬にそう訊ねると
彼女はぐっと僕の手首を引っ張って
海の方を指差しながら 付き従うようと
ぷいと首と尻尾を振って歩き出した

浜辺へ通じるブッシュ道の途中で ふいに歩みを止めたテリア犬が
楔をのように僕の目を見つめる

夜の浜辺に
マッコウクジラが尾っぽの付け根辺りから
砂浜に大きな胸を反らせて喘いでいる
「プシュー」と弱々しく何度も潮を吹きあげ
夜空をチラリと揺らすたび

このクジラと施設に暮らすどうぶつ達が
何かとても大きな秘密で関係しているような気がしていた
ブルブルと母から電話がケータイに着信する

「いまラフ・テフにいるよ」
僕はじっとテリア犬の目を見つめながら
少し上ずった声で 母にそう告げていた

文学極道

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