峡谷を照らすのならば
三日月が良い
牙をおそれる者たちはみな
果実の甘さにかじりつくのだから
瞳をみたす満月を
切り立つ岩のその頭上に
輝かせてはならない
刮目せよ
か細い月光は
そのか細さゆえにこそ
姿を鋭く映えさせる
獣の形を映えさせる
なだらかな平地と
けわしい頂と
その中間の
誰にも触れられぬ空間で視線が合ったとき
遠吠えは始まる
きびすを返した瞬間から
すべての命は
背中に集約されてゆくのだ
三日月は
その影を随所に縛り付けながら
東へと傾いてゆくだろう
鼻の利く者に味方するでもなく
足を頼る者に味方するでもなく
刻一刻と
夜を冷たく傾けてゆくだろう
寝床を探せ
天が満月を育てあげる過程を
知らずに済ませられるような
寝床を探せ
場合によっては
その牙
その爪を
穴掘る道具に置き換えながら
選出作品
作品 - 20051122_463_768p
- [佳] 狼 - 雪香 (2005-11)
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狼
雪香