(忘却について。Fe)
ずっと、ここにいる。同じ場所にいるということ、その歪みが
暖かく柔らかい思い出を作りかえる。それと分かる程度の拙さで
戻らない。彼は帰らない。青い海色の絵手紙は幾つも積み重なって
揺ら揺らの秤。片方に紅の金平糖。金のリボンと、そ、比較した
彼の身体、塩化銀から、白と黒の波を選り分けているうちに
視界があべこべになる、混合されたものも、純粋物質も、同じく
正体をつかみ、一人きりになる。今、客体として、私にそっくりな人(彼女)が
水に溶ける。ひらひらと。黒い髪が、少し、愛しくもあり
私は、かつてオリジナルであり、今は塩湖に漂う母体でしかない
寝返りをうつと、身体の左側が、不思議なくらい熱くなる
彼女、鏡の中の瞳を見ると、魔法が解けてしまうのを知っている、から
いつもより早くベッドに入った。薄緑色の海が、感情を抱えてたゆたっている
常夜灯に照らされ、眩しさに驚いた。そして、私はぞっとするような
静かな心持ちで、部屋を出ていき、もう戻っては来ない
選出作品
作品 - 20051108_097_711p
- [優] 無題 - 埜 (2005-11)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
無題
埜