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選出作品 (投稿日時順 / 全2作)

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無題

  

(忘却について。Fe)

 ずっと、ここにいる。同じ場所にいるということ、その歪みが
 暖かく柔らかい思い出を作りかえる。それと分かる程度の拙さで

 戻らない。彼は帰らない。青い海色の絵手紙は幾つも積み重なって
 揺ら揺らの秤。片方に紅の金平糖。金のリボンと、そ、比較した


 彼の身体、塩化銀から、白と黒の波を選り分けているうちに
 視界があべこべになる、混合されたものも、純粋物質も、同じく

 正体をつかみ、一人きりになる。今、客体として、私にそっくりな人(彼女)が
 水に溶ける。ひらひらと。黒い髪が、少し、愛しくもあり


 私は、かつてオリジナルであり、今は塩湖に漂う母体でしかない
 寝返りをうつと、身体の左側が、不思議なくらい熱くなる

 彼女、鏡の中の瞳を見ると、魔法が解けてしまうのを知っている、から
 いつもより早くベッドに入った。薄緑色の海が、感情を抱えてたゆたっている


 常夜灯に照らされ、眩しさに驚いた。そして、私はぞっとするような
 静かな心持ちで、部屋を出ていき、もう戻っては来ない


蝶を呑む

  



 全ての雨が降下を終えて まだ
 魂が這い上がることは許されていない


 ラメを散りばめスパンコールに冒された蝶は毒を全身に隠している
 朦朧とした光の中で性別も良く分からないのに
 目の前でゆっくりと溶けている


 等号の意味を知る イコールで結ばれた番の片方は
 たいてい 蝿も近寄らないくらいに気高く美しい


 (ひどい湿地を抜ける 沼の周りは特に強烈な
 薫りでヒトを誘う 先行した人達はそこで暮らしている)


 食糧難が遠い時代になり あなたは蝶を呑みこむ
 体内で羽ばたくくらいが丁度良い?


 (肩胛骨 あまりにも甘く苦しいあなた
 五指 湾曲部 ネイルオイルを舐める)


 大災害だ 冷たい夜なのに柔らかく湿った土は凍らない
 ユートピア 間違えないように半島の地図を携えて


 右の臀部に 楽園を追い出された彼らの名前を
 ひけらかすように その 呼気の一つ一つに亜熱帯の
 暗闇を込めている アルコールが燃えている


 再々開後の宇宙 誰もが 身を激しく打つ雨を知らない
 深とした大気に星が降りかかる「喜び」すらも

文学極道

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