待ち合わせのプールバーで
虚仮威しのような酒を呑みながら
待つ
肩のタトゥが隠れるほどドレッドを垂らした店番は注文以外の話をしない
一時間遅れであいつが雨に濡れて来る
途中、傘がぶつかったなんだと駅前で難癖をつけられたと切り出す
傘を捨ててきたことはどうでもいいんだ
あいつはビリヤード台と自分の腰で見知らぬ女を挟みレクチュアーを始める
耳元で軽率な契約とユーモアを囁いてるのかもしれない
彼女はくすぐったそうに笑う
俺はいい加減に呑みすぎていて
適当なキューをひっこ抜くと
勝手にエイトボールを始めた
あいつは端正に微笑むと俺でも女にでもなく云い放った
この女を賭けようか
洗練された高尚な暇潰しだ
ダブルクッション
緻密に計算されたゲームとあいつの横顔を交互に見比べた女
勝利を確信した様子で
あと数時間後の情事に思いを馳せながらグラスを合わせるふたり
俺は反対側で強い酒を干しながら出番を待つ
あっと云う間だ
あいつは8番を落とすポケットを宣言する
そしておそらくミスを犯すだろう
あいつの背後に立つ女が
無精髭の俺を見下した瞳で射た
迷い無く玉を弾いた音
8番は落ちない
あいつは女のほうを見ずにグラスを空けた
俺は打ち方を構えると云った
おまえ、別にその女が欲しかったわけじゃなかったろ
じゃあおまえはどうなんだ
無言の8番が落ちたとき
あの女はとっくに居なくなっていた
あいつはまた別な女に話しかけている
俺は雨が上がったら帰ろうと云った
選出作品
作品 - 20051107_056_703p
- [佳] 8番 - 鷲聖 (2005-11)
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8番
鷲聖