こぼれていく 脚と 脚と 脚と
化学工場の作業員が明け方の海に浮んでいる
静かな浅瀬から清まっていく盲目の白波
肥大したプランクトンが自己から逃避する
青ざめに
僕は海の水で顔を洗う
日課となりつつある
写真のような太陽を翼の
葉脈に挿し込んだ神々しい海鳥たち
澄んだ啄ばみの音がする
速くない潮の流れが心地好い
真夜中
採って来た団栗の切っ先に
変色した靴と帽子を引っ掛けて蹴伸びをする
漂着した作業着が僕の爪先と
親しげに会話をする
空っぽの頭が寂しさに耽り髪を切った
作業着に身を包むと懐かしい香りがした
作業をした
月が落とした種を拾って
一定の間隔で植え付けた
隣り合わないようにした
たまに口の中に入れてみる
舌で転がすと
清しい酸味が口中に広がって
手のしんがじんじんと痺れた
時間が経つと
作業着が汗で臭う
陸地
この座標は
黒漆で光跡で
考える暇もなく水である
思考を止めた
空気に焦げつきながら雪崩れ込む僕は
そして、どこへでも行ける
赤く色づいた女が
僕の傍らへ歩み寄って来る
(ては )
(ては )
そのまま死なせてあげたかったのに
彼女の眼を見なかった
渦巻き色の気流の壁が
同じ場所に永遠と繋がれる
僕は海の水で顔を洗う
剥き出しの月光はぎいと動く
冷たい静寂はしんしんと
横たわる顔面を白紙によごした
背中の肉を啄ばむ海鳥たち
発狂する赤く色づいた女と
化学工場の作業員が明け方の海に浮んでいる
脚と、
脚と、
脚と、
こぼれていけ
ここは拉げた陸地
選出作品
作品 - 20051101_955_688p
- [佳] 既望 - he (2005-11)
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既望
he