起きたての薄ぼやけたひかり
ひとつまたひとつと現れては消える
いつもの窓から朝焼けは時をしらせ
人が死んだ世界で誕生する
彼にはそんなことはどうでも良かった
彼の名前は誰かに知らせる為には存在しない
通りを歩く楽しげな笑い声
海辺のショッピングモールでごったがえす
買い物客の喧騒や心地よさも
彼は流れ逝く全てを対象とし
世界の外側から絶えず見つけ
流れ逝く全てを愛した
初恋の甘さもなく
愛する人の腕の中で見る
永く柔らかい夢もない
ただひとつ間違えなく云えること
彼は決して恨んではいなかった
まだ彼が小さい子供の頃彼には父がいなかった
彼の父は幼い頃白血病を患い若き死を迎える
彼には父親の記憶があまりない
彼は独りで遊ぶことが好きな少年だった
まだ誰も知らないであろう場所まで自転車をこいでは
見つけ出す全ての新しさを好んだ
広い空き地で彼は
一人とても冷たい風を受け
心だけが風を受け入れられぬまま佇んでいた
夕暮れ
空一面を彩るその荘厳に
彼は自分の足元が少しだけ立派になった気がした
夕闇に風がシャツを心地よく揺らす時刻
片隅に捨ててあるひとつの玩具を見つけた
それは電池式であり
繊細な赤や緑の糸が幾つも施されており
電池を入れると内部の電極を通した糸が光り
点滅を繰り返すといった玩具だ
しかし彼には電池がない
どうしようもなくそのひかりが彼の心にひろがる
ひかり・・の点滅がほしい
えいえんにきえないひかり・・・
彼は自転車に乗り家路を辿った
ひかりの玩具は空き地の片隅の樹の下に隠し
何となく見つからないと彼は確信していた
それは紛れもない彼自身だったから
家に着き二階の陽の少ない部屋へと進む
そこには時折思い出したように
薄笑う彼の顔が在る
彼は両腕を天井の方に向け歌う
ピカピカ、ピカピカ、僕のお手手に赤い街・・
ピカピカ、ピカピカ、僕のお手手に青い森・・・
ひどくつかれていた
完全にひとつの運命のようなものが
灼光した炎のように彼の中にひろがる
彼はまだ気づいてはいなかった
あらゆる朽ち果てしモノの中で
大気すらもいとおしく彼の表情をなぞったことさえも
選出作品
作品 - 20051024_786_658p
- [佳] 彼 - キメラ (2005-10)
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彼
キメラ