選出作品

作品 - 20050919_029_535p

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クルンテープ

  コントラ

赤い湿疹が体をおおう夢をみた
5階建てのドミトリーで
寝がえりをうつ深夜

ベランダにでると
デルタ地帯からの風が吹いていた
吐き出すクレテック煙草の甘い煙と
のどの痛み

生あたたかい闇のなか
はすかいに見える古い旅社では
白いワンピースを着た女が
長く暗い廊下の奥へと
しずかに消えていった

真昼は血液が氾濫する恐怖のうちに
すぎていった
チャイナタウンの排水溝
香菜と煮込んだ肉が薫る
路地をぬけてゆく
眼のみえない犬

歩道橋の陰で
寝そべる
片足のない子供たち
ダンキンドーナツの紙カップの底には
わずか2、3枚の
銅のコインがはいっていて
彼らが音をたててそれを振るとき
きまって
雨がふるのだった

夕方4時
ラマ4世の交差点
スモッグにおおわれた空
追い抜いていったホンダの
後部座席では
横座りした若い女が
建設ラッシュの高架に
微笑を投げ

夕日を背に渋滞する車の列
その前方には
青いSANYOのネオンサインが
ひかっていた

国鉄の線路をこえたむこう
荒地のまんなかに立つ
白い病院の屋上には
アドバルーンが
浮かんでいた

細い注射器に満ちてゆく血液
流暢な日本語を話す医師の名刺には
大阪大学医学部卒
とあった

夜は眠られるまで
脈拍を数えていた

飛行機に乗る夢をみた
大地に影を落として飛ぶ機体

窓から見おろすと
湿地帯を蛇行する川が
赤い三日月形の沼を
つくっていた

クルンテープ