赤い湿疹が体をおおう夢をみた
5階建てのドミトリーで
寝がえりをうつ深夜
ベランダにでると
デルタ地帯からの風が吹いていた
吐き出すクレテック煙草の甘い煙と
のどの痛み
生あたたかい闇のなか
はすかいに見える古い旅社では
白いワンピースを着た女が
長く暗い廊下の奥へと
しずかに消えていった
真昼は血液が氾濫する恐怖のうちに
すぎていった
チャイナタウンの排水溝
香菜と煮込んだ肉が薫る
路地をぬけてゆく
眼のみえない犬
歩道橋の陰で
寝そべる
片足のない子供たち
ダンキンドーナツの紙カップの底には
わずか2、3枚の
銅のコインがはいっていて
彼らが音をたててそれを振るとき
きまって
雨がふるのだった
夕方4時
ラマ4世の交差点
スモッグにおおわれた空
追い抜いていったホンダの
後部座席では
横座りした若い女が
建設ラッシュの高架に
微笑を投げ
夕日を背に渋滞する車の列
その前方には
青いSANYOのネオンサインが
ひかっていた
国鉄の線路をこえたむこう
荒地のまんなかに立つ
白い病院の屋上には
アドバルーンが
浮かんでいた
細い注射器に満ちてゆく血液
流暢な日本語を話す医師の名刺には
大阪大学医学部卒
とあった
夜は眠られるまで
脈拍を数えていた
飛行機に乗る夢をみた
大地に影を落として飛ぶ機体
窓から見おろすと
湿地帯を蛇行する川が
赤い三日月形の沼を
つくっていた
クルンテープ
選出作品
作品 - 20050919_029_535p
- [優] クルンテープ - コントラ (2005-09)
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