私は貧血のまま図書館の椅子に座り続けていた
はじめ目の前がしらしらしてきて、まっ黒になったのだ
目を開けていた
太陽の温かさを感じたが、光の痛みを感じなかった
私は視力がもどるのを待っていた
私は目に見えないものを一切信じない
梢のはずだから、その音を潮騒とは思いたくなかった
静かだ、右前に座っている人の感じが掴めない
血が再び色を染めればまた現れるだろう
きっと、そこにある
光は見えなかった
私の視覚はいま何を映しているのだろうか
そもそも何を見てきたのか
いま見る私とかつて見ていた私は何か
私は神に、種明かしを、本物を見せてくれと祈りかけた
理性はそれをすんでのところで喰いとめた
そして永遠の墓標にそれを刻みつけた
*
安楽が訪れた、視覚が回復した
私がまず見たものは、
所々の影が白く塗り潰された図書館だった
右前の人は顔を伏せて
青く細長い指に支えられた本を眺めていた
彼女、はいきなり身を乗りだして私の喉に噛み付いた
*
こうして私は白いベッドの中で四つ目の視覚を得た
選出作品
作品 - 20050916_977_525p
- [佳] 白 - 樫やすお (2005-09)
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白
樫やすお