お嬢さん 日傘を忘れないで
届かない残暑見舞いの差出人は
黄金比に似合う言葉が
もう見つからないそうです
葉書の四角い無地が
映画館のスクリーンほど妬ましく
西日にさらして 放置しているそうです
太陽の未練は 偵察飛行しながら
お嬢さんの白い肌を狙っています
白と黒がせめぎあっては許しあう
テキトウなこの世界で
俺は お嬢さんのためなら 台風の夜
ポンズダブルホワイトを買いに
ドラッグストアまで走ってもいいんだ
お嬢さん 日傘を忘れないで
受け取った名刺の数だけ
日焼けの痕が複雑になるから
花の刺繍が美しい その日傘で
名前の散弾を しのいでください
俺は その名前をリュックに詰め込んで
はとバスに乗るから
なにも書かずに投函したそうです
最近は 青いポストもあるそうです
白い葉書の軽さは
残暑のGに逆らって
太陽の隙間をくぐりぬけ
ふわりと舞っていくような
そんな気持ちになったそうです
お嬢さん 日傘を忘れないで
陽射しをさえぎった小さな世界は
街を移動しながら 裏切っていく
影の エージェントの 俺の
道しるべになるのだから
選出作品
作品 - 20050915_938_520p
- [優] お嬢さん 日傘を忘れないで - りす (2005-09)
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お嬢さん 日傘を忘れないで
りす