五月の草原は
見えざるものたちの管弦楽団
風の指揮にそって 浅い夜を音楽にひたす
草むらに埋葬された僕を 星の視点から僕が見ている
なんて滑稽な図式 しかしうつくしい夜想曲
滑稽な美しさに 視界が曖昧にされる
ぼやける もしくは とじていく
まぶたのうらで
水底は深く澄んでいた
川を 葬列が渡る 散った波状は音もなく
むこうがわへとかれらを渡す
波状は立ち消え 水面はまた流れだす 音もなく
僕の葬列は行ってしまった
ここで飛ぶ
鉄塔群 逆光 遠い八月
複製された空を 飛ぶ 街を抜ける
まなざしの先の運命を まばたきの裏の恒久を
うつむきの奥に流れるだろう見知らぬけもの その血で
残滅する 瓦解させる 崩落の声 どこかできいた
鉄塔群に棲む冬猿 潔白のために殺した
裂いて 薄い肩の平穏を 待って
目をふせた星たちがおとす きらめく影の中で
五月になった 季節が呼んだ 五月になれと 季節が云った
ざわめきつづける鳥たちは声をうばわれて
海は静謐な凪に犯されている
そっと夜になり 押し寄せた闇がまぶしい
世界は管弦楽にただよったまま
すべてを放棄した
少女 と呼ばれるたびに
壊れていく地平がある そこでは
雷が蜘蛛の巣のように増殖していく すこし薄まった空気
思い出してもでてこない 少女の名前
また どこかで地平が崩れる
たぶんそう きっと つけたのだろう名前を
僕は 告げたのだろう名前を あのとき
思い出すのではなく創造すること そうして
波状を描いて 交差する世界の静脈
また戻して
葬列が跳ねていった川の水
黒く澄んだその浸食を風がなぞる
たゆたうように回る惑星のだれもしらないかたすみで
音楽は鳴らされて 幾つかの夜に溶けていく
解体された牡牛のそばでじっと動かない僕は
やはり 埋葬されているのだろう
管弦楽に耳をかたむける聴衆
露草を滑ったちいさな色彩は透きとおって
星の流したなみだは
ひどくきらめいて消えた
選出作品
波状
守り手