/18月39日、あたしは南西町で暮らすことになった。2年前から戦争はつづいているけれど、そこは比較的安全と言われていた。
/この町では、生産性のある者は白い服を、そうでない者は黒い服を着なければならなかった。町役場にあたしの生産性が認められたとき、だからあたしはお気に入りのピンクのスカートや鮮やかな虹色をしたマフラー、喪服を捨てなければならなかった。
/あたらしい家の前の通りには、花がたくさん咲いている。赤い花。青い花。黄色い花。紫色の花。あたしの部屋の窓からは、のろみちゃんのうしろすがたが見える。のろみちゃんは南西町で、ゆいいつ黒い服を着た女の子だった。
/のろみちゃんは毎日、毎日このお花畑にある花を摘みつづけている。のろみちゃんの足下には、赤い花、青い花、黄色い花、紫色の花がいつも散乱していた。どうして咲いている花を摘んでしまうの。一度だけ、聞いたことがある。「わたしには生産性がないから。」のろみちゃんはこちらを見ずに答えた。あたしはのろみちゃんと友達になりたかった。だから、のろみちゃんのうしろすがたを見つけるたび、外へ出た。
/21月4日、あたしがこの町に来てから、はじめて空襲警報が鳴った。子どもたちは母親に手をひかれ、家の中へと急ぐ。あたしはその日も、いつものようにのろみちゃんが花を摘む様子を見ていた。簡単な音楽が鳴り終わるころには、あたしたちのまわりには誰もいなくなってしまった。
/のろみちゃん、空襲だよ、はやく帰ろう、誰もいないよ。あたしが叫んでも、のろみちゃんは花を摘みつづけている。赤い花。青い花。黄色い花。紫色の花。人さし指、中指、茎をはさんでひきぬく。場合によっては花びらをちぎる。のろみちゃんの小さい爪。こちらを決して見ない。
/どんなときでものろみちゃんが花を摘みつづけられるのは、ポケットのなかに爆弾をしのばせているからだと、あたしはとっくの昔に知っていた。黒い服を着た者に南西町から爆弾が支給されること、あたしたちには知らされないけれど、路地裏ではあたしの生産性を妬んだ男たちがいつも爆弾をちらつかせていたから、つまりそういうことなのだと思う。
/これからものろみちゃんは毎日、毎日花を摘みつづけるだろう。爆弾の重み冷たさを感じるたび、赤い花、青い花、黄色い花、紫色の花、花を摘みつづけるだろう。それが爆発の可能性を十分にはらんでいても、花を摘みつづけるために、のろみちゃんはからだで爆弾を隠す、守る。
/あしたもあたしは、のろみちゃんの様子を見る。このお花畑の花をすべて摘み終えるときが、のろみちゃんの爆弾を爆発させるときなのだと思う。たとえ誰も爆発に巻き込めなくても、それがのろみちゃんにとっての正しい戦い方だった。
/いつかのろみちゃんが死んだとしても、あたしはお葬式には行けない。生産性のあるあたしは、南西町に住むかぎり、喪服を着てはいけないのだから。
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20070228_533_1874p
- ミドリ :
こんばんは、中村さん。
随分、作風が変りましたね。ぼくが君の作品にここで初めて接した時、ぼく以外にここでは誰も評価を与えなかったような気がするんだけれど。
この作品は中村さんの中で過渡期にある作品だという感じを受けます。君の初出の作品をぼくが評価したのは、作品の根っこにある、痛いくらい研ぎ澄まされた感受性と洞察力。それを感じたからであって、そしてそこからこの作品へ至る経緯を、ぼくなりに思うとすると、中村さんのいま置かれている立場や状況や年頃からくる「位相」。といったものを、「作品」という創作行為の中を巡ることで相対化していく。つまりそれは「社会性」の獲得、といった部分に意識の比重を移行させた作品である。
まずそんな印象を持ちましたね。
「のろみちゃんの戦争」というこの作品は、まずそのパッとしたつかみ所のないそのファニーに状況設定に、危うい魅力を放っている作品かなって思うのと、モチーフの捉まえ方が独創的ですね。まず、ぼくらオッサンには、譬えようもないような世界観を見せられたような気がしますが。
それは「国家」「制度」「暴力」「平和」といったモチーフを、中村さんくらいの世代が、どう向き合っていくのか、というような、小さな芽の子のように、抱卵しつつある作品であるという点を、一番に評価した部分である気がするけれど、同時に、中村さん自身がきちんと向き合えていない部分が、綻びになって出てしまっている。つまりもっとこの作品世界の持つ輪郭の濃淡を、くっきりと浮き彫りにしてみせることが出来るはずだ。
という点で、課題を残しているような気が、ぼくはしましたね。 ('07/02/28 21:56:43)
- 中村かほり :
こんばんみんとー!ミドリしゃん!
過渡期ということですが。
ん、たしかにそうかもしれない。
去年はわたし、いわゆるスランプでして、なにも書けず、また、書けたとしても「?」という日々がつづきました。
けれどもこの詩を書いて、「ああ!わたしの書きたかったものってこういうものだったんらーー!!!1」と思い、スランプを脱したのでした。
さて、作品について。
わたしは「〜をテーマに詩を書こう」と決めて取り組むタイプではないのであって、気づいたら言葉がどんどんあふれてきて、それを必死につかまえる、というタイプなんですね。
ここらへんのスタンスがもしかしたら「恣意的」と言われる所以なのかもしれないですが。
ですから、無意識のうちにわたしのカッコ悪い部分(=社会と向き合えない部分)が出てしまったのだと思います。
この点を改善するためには、詩の技術うんぬんでなく、わたし自身の成長にかかっていますよね。。うう。がんばります。書きつづけます。
批評、どうもありがとうございました。
さいごになりましたが、そうですね、ミドリさんはわたしが16歳くらいのときから、ここでお世話してくださいましたよね。
そのことをふまえると、もしかしたらわたしはミドリさんのこと、「おとおさん」と呼んでもいいのかもしれない(笑) ('07/03/01 17:15:27)
- 平川綾真智 :
拝読させていただきました。
こんにちは。
0から創られている世界観がとても良い意味で気になりました。
流れと世界が段々わかってくるつくり、終わりに繋がった時に唸りました。
計算されつくされた世界だな、と。
細かい点が気になったので、上げておきます。
町役場にあたしの生産性が認められたとき、だからあたしは
などは、個人的に、
だから町役場にあたしの生産性が認められたとき、あたしは
などの方がよいかな、と思います。
「だから」はその後も出てくるので、気を付けて、接続語を選んでいく必要があると感じました。
「の」に関しても「のろみちゃん」と、扱いを上げてしまっているので、助詞「の」は少なくした方が良いと思いました。
接続詞と助詞、指示語の使い方、それらの精度が上がっていったら、もっとよくなると思います。
計算されつくした世界は小林賢太郎を超えるかもしれないと感じました。
文章の流れの上手さを是非、これから。
以上です。
失礼します。 ('07/03/05 23:52:39)
- 新長老 :
はじめまして、
ではないのですが正確には。
かの詩集に御作品を寄せていただいて以来、ゾッコンなのですよ。
惚れました。惚れ過ぎてファンレターを出すのも躊躇するほどに、
みたいな話は置いといて。
やはり、中村さんの詩には、素人を惹きつける不可思議な魅力が、あります。
説明しながら崩れていくような散文的な流れ、柔らかいのに苦しくなる呼吸の遍在、そして、ちゃんとオチがある、そんな詩。
あまり詩に詳しくない私が言う事ではないのかもしれないけれど、
新しい、と感じたな。うん。
願わくば、ずっと完成されないまま、ずっと新しいといいな。いや、技巧的な話、ではなくて。
考え込みながら笑顔になるような、そんな詩って、なかなか無いよ。
何度も声に出して読んで、紙に写したりしたんだ。
それって中村さんの詩に限らないのだけどもね。
ありがとうございました。
('07/03/06 20:08:04)
- 中村かほり :
にゃふー!平川しゃんっっっ!にゃふー!!1!
レスありがとうですーーー!!!!
ミドリさんのところにも書きましたが、わたしはどんどんとあふれてくる言葉を必死につかまえて詩を書くタイプなので、「だから」などの使い方が甘くなってしまったんかもしれませぬ。。
これを改善するためには推敲、推敲ですねっ!
なかむーわがんばってしまうよ!
ラー的な話は詳しくないので、こんどDVDを借りて見てみます(笑)
ほんとうにありがとうございました。 ('07/03/09 15:49:41)
- 中村かほり :
新長老さま、はじめましてっっ。
好意的なレス、ありがとうございまふ。
新しいんですかねー。
「世界」そのものを表現することはずっとしたくて、だからしたのですけど、成功していた(たぶん)ようで良かったです。
紙に写したんですか!!!!
そこまで好いてもらえてうれしいうれしい!
技巧的なことはさまざまなところで注意されているので、さまざまな素敵作品に触れて、向上につとめたいと思いまっす。
レス、ありがとうございましたー! ('07/03/09 15:54:40)
- シンジロウ :
のろみちゃんを見つめ続けるって事は、実はのろみちゃんはかほりさん自身なのかも。自分の「生産性」の無い部分への距離を置いた接し方なのかも。 ('07/03/10 15:35:07)
- Eiji :
初めまして中村さん。唐突だがコメントに萌えた。結婚してください。ハネムーンはロシアで旧ソ連のヘンな建物を見て回りましょう。小学生が作った秘密基地みたいで面白いですよ。もちろん冗談です。
それにしても、この詩は色々と考えさせてくれる。生産性のない人間、これはある意味で永遠のテーマだよね。自分は、彼らには二つの権利があると思ってるんだ。すなわち「潔く死ぬ」権利か、「ポチッ……ドガーン!!」する権利。絶望の先は虚無と憎しみの分岐点。まあ、どちらを選ぶかは、生まれつきの強さ弱さで決まっているような気もする。後者を選ぶだろうのろみちゃんは、そういう意味では「強かった」と思うんだ。自爆は最大級のシャウトだしね。
自分ものろみちゃんとはぜひ友達になりたい。あとコメント萌えた。ドガーン!! ('07/03/11 16:58:06)
- 中村かほり :
シンジロさーーーん!
レスどうもでっす!
のろみんは、わたしではありません。
のろみんを見つめつづけるのは、「あたし」がのろみんに憧れているからなんです。
生産性があるという理由で安全なポジションにいる「あたし」なんですが、たどり着くさきがたとえ死であろうと、みずから切り開いて行くのろみちんの強さが「あたし」は欲しいのですよ。
でも「あたし」はぜったいに手に入らないことを知っている。
読み込んでいただいたみたいで、のろみんも「あたし」もわたしもうれしいです。
ほんとうにありがとうございました。 ('07/03/11 20:25:30)
- 中村かほり :
はじめましって、Eijiさん。
うひゃあ、とつぜん愛の告☆白ですか!
なかむーは家事が大好きですし、揚げ物いがい(ビコーズ、油がはねるの嫌いなの)ならどんな料理でもイけるくちですので、嫁にしたい詩人ナンバー1(anan調べ)にも選ばれたことがあるのですよっ!!
でもわたしには将来を誓い合った大好きな恋人がおりますので、残念ですが、このおはなしは断らせていただきます。ぺこり。
のろみちゃんは「あたし」(=わたし=作者)にとっての「強さ」の象徴ですので、Eijiさんの読み込みのするどさにビックリ!です!
のろみちゃんになりたいよー。
でもわたしは、わたしがのろみちゃんになれないこと、つまり強くなれないことを知っているんだ。
萌えた、と言われたのははじめてなので、胸がドキドキしています。
杉並の田中エリスと名乗ってもよろしいでせうか!!
レス、ありがとうございました。では。 ('07/03/11 20:35:37)
- シンジロウ :
こんばんは 中村かほりさん
短いコメントで、読み込んだと感じる感性はすごいですね。
ちゅ〜か、もうコメントがキャピキャピ〜な感じで、ここに巣食ってる、頭の固いオジサマたちには、もうたまらんでしょう^^
のろみん的美しく散る人生もあるでしょうが、俺はスナフキンのごとくさすらって生きますよ。でも時々、のろみんと一緒に花でも摘んでみたいけど、のろみんは、その自分の世界に入れてくれないかもね^^。
のろみんの為に、悲しい花摘みの歌を歌うよ。
それでは^^
('07/03/11 21:38:31)
- 池中茉莉花 :
はじめまして。
何回も何回も読ませて頂きました。
自分をのろみちゃんに重ね合わせて読んでしまいました。
「私ほど生産性のない人間が生きている資格があるだろうか」
ペシミスティックですが、わたしはそんなことをよく考えます。
何の価値も生み出せず、人が産みだした価値を横取りして生きていること。
だから、わぁーっと感情がこみ上げてくる作品です。
でも、願わくは、爆弾で自分を殺したくはない。だから、この作品の
「わたし」でありたいと思います。のろみちゃんに共感しながら、のろみちゃんにはなりたくない。
感想文になりましたが、心を大きく揺さぶられました。
読ませて頂きありがとうございます。 ('07/03/19 21:07:24)