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9171 : 銀杏は散りゆく宿命なら  野良猫ニャンコ '16/10/10 00:17:56

年年歳歳花相似たりと言うが、
一つの冬を超える度に騒がしくなっていく銀杏の並木通り。

煉瓦造りの古い建物と、味気ないコンクリートの建物がまとまりもなく並んでいる通りを久方ぶりに歩くが、時間のない私の視界は古びた建物しか写らない。

「この街も寂しくなった。
…馴染みの店も、どれ程残っているのか」


とりとめのない独り言を呟き、歩きつづける。
落ち葉の一枚、一枚すらも踏むことなく、煉瓦道をゆったりと。
それでも、この身体には大きな負担をかけていて、一つしかない肺胞は悲鳴をあげる。


つと、足を止め、銀杏に手をつき呟いた。


「若い頃は、お前達が羨ましいと思っていた。
何年も、何年も、病にかかることもなく、強く生きるお前達が。
歳を得るごとに太く、強くなるお前達が。
だが、それは間違いだった。
私はお前達と違って、歳を得るごとに、細く、弱くなってゆく。

なぜだろうな。

それが、今は、

無性に嬉しいのだ」



空は全くの、秋の
高く、遠く、輝いて。
やがて来るべき冬に備えていて、それが私の結末だと知らせている。

街は、少し騒々しくて、秋に、私に相応しい赤いサイレンが鳴り響く。

そのまま、歩道に、手を付く。
ざらついた煉瓦の心地よさ。
不自然であるけれど、人の営みが自然なことであるなら、自然にできたデコボコが、私の不均等な手のひらに巧く収まる。
私はこの街と共に育ったのだ。


通りの店。
ラジオは小さな街の、小さなニュースを流す。

「ホスピタルから老人が消えた」と。

それを聞いて思わず苦笑いが漏れてしまいそうになる。

店主が、私を転んだ老人だと思い、声をかけてきた。
暖かい。
人はやはり暖かいのだ。

この国が、戦争の苦しみ、混乱にまみれた時もそうだった。
皆、それぞれに生きることで精一杯だったけれど、それでも、パンの端切れをわけあったりしたものだ。
今はどうだろうか。
秋が終わろうとしているのではないだろうか。


「大丈夫、大丈夫、今から、息子と妻に会いに行くところだから」


そう言って、私は消えていく。


やがて来る、夕暮れ。
西日は煉瓦に吸い込まれ、夜の寒さから、人を守る衣服へと変わり、
秋の深さはより深まって、私達を包む。
けれど、秋が終わる。

そう、私の秋が終わるのだ。


「やはり、夜は寒い。
けれど、昼間のあの通りと、人の声は暖かった。
さ、お前たち、冷えた私の身体を暖めておくれ」

私は妻と息子を抱き締めた。

「あぁ、暖かい、暖かい。

お前達…

…いま、帰ったぞ」

街は、相も変わらず、騒々しいまま、私は眠った。










翌朝、ラジオは消えた老人が見つかったと報せる。

その老人は、通りを見渡せる、小高い丘で、子どものように無邪気な笑顔で、二つの墓に抱かれるように、二つの墓を抱いて、


息絶えていたのだ。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20161010_297_9171p


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