海には人がいつも溢れている。カモン、カモンと鴎は空を飛び交っている。海の青は、カモン、カモンと空の青に混ざりこみ、鴎はいまだ完全には混ざりきらない二つの青の間を、行ったり来たり彷徨いながら、新しい青の侵入を待っている。ぼくが新しい青になれるなら、その可能性があるなら、ぼくは新しい青になって、カモン、カモンとあの空と海に混ざりこむだろう。
海には、海には、海には。鴎が、白い。青い空が、海と鴎に混ざり、茫洋と薄れてゆく陽光は、女の名前みたいにうつくしく、彼女は実在しながら、姿はなく、黒人は、砂浜に足跡を残し、誰かの助けを待っているのだが、なく、海に流され、黒人の腐乱した死体に、白い鴎が群がり、鴎は黒く、同時に青く、ぼくは、そんな光景を見ていた。見ていると、海が溢れ、彼女は実在せず、海は人であふれ、冬に近い季節の海に誓い、背中に釣竿を背負った男は、黒人だった。白人だった。
それから、黒人が海に飛び込んで、一瞬で空に落ちる様態を見届けたあと、白人は海に飛び込んで(黒人と一寸の狂いもない同じ地点に!)、黒人よりも随分緩やかに、空に落ちる白人は、中空で、先に空に落ちた黒人を追うように、落ちていった。白と黒が、青に。ぼくは、「白と黒が、青に」の少し上あたりを、しつこく飽きるまで眺め、それに飽きてしまうと、海に飛び込んで、空に落ちた。中空で、ぼくが青に。「ぼくが青に」の少し上あたりに、鴎が飛び交い、一瞬で青がはじけた。白が消えた。
- d :
おう、なかなか素敵じゃあないですか。
黒人と白人が色彩以外のニュアンスを持たないと良いのだけれど、
作者の意図とは関わりなく、どうしても読み手に、意味されたものの残滓が渡ってしまうと思う。人種ってとても強い言葉だから。
俺なら「黒い男」とか「白い男」とか書き換える、或いはこの色彩は捨てる。
あと、「カモン、カモン」、「カモメ、カモメ」どっちがいいだろう。
>海には、海には、海には。鴎が、白い。青い空が、海と鴎に混ざり、茫洋と薄れてゆく陽光は、女の名前
>みたいにうつくしく、彼女は実在しながら、姿はなく、
このへんやラストはみごとですね。
ド・スタールの絵を見ているよう。 ('05/01/26 20:19:04)
- d :
若しくは、ひとりの黒人、ひとりの白人に関わる具体的な描写を入れる。
漁の光景であるとか、浜辺を散策する様子とか。 ('05/01/26 22:08:24)
- 蛍 :
こんばんは、はじめまして。
言葉がきれいなリズムをもっていて、心地良いです。
青と白と黒。
色が重なり合い、溶けあっていくようで素敵でした。
ただ、私も白人と黒人という表現に特別な意味合いがよぎり、
それゆえに鴎の印象が少し薄れてしまったような気がします。
白として描くのは鴎だけで良かったのでは、と思いました。 ('05/01/26 22:28:28)
- Nizzzy :
はじめまして。少しばかり。
第一連がすごく好きです。音もいいし(個人的にはカモンの方があっている気がします)
ただ黒人とか白人のイメージが強くて、その色彩だけCGで塗りつぶした色のように感じます。
そのためか、何だか2,3連とイメージがFlash作品になってきているのが残念です。 ('05/01/26 23:42:19)
- 広田修 :
一読して良い詩だなと思った。これは重要だと思う。
海や空や鴎やぼくや「空に落ちる」はありふれていると思うし、「ぼく」が青になるというのは予想された結末だと思う。それだけだったらつまらない詩になっていたのではないか。この詩の価値は「人」を取り込むことによって高められていると思う。私でもあなたでもない3人称としての人。かといって主体に働きかけるわけでも言葉を発するわけでもない腐ったり飛び込んだりするだけの物や動物に近いものとしての人。この作品世界に対してはいわば異物である人。その異物をうまく取り込んでいるあたりがこの詩の新しさだと思った。 ('05/01/27 09:12:51)
- たもつ :
きちんと「仕事」がされていると思う。文章に緩急があって、一見たどたどしい
部分もきちんと読者の興味をひきつつ先を読ませる仕事がしてある。
しかもあざとさがなく、作者の内にあるリズムが自然と表出している印象が残る。
「黒人」「白人」についてはダーザインさんが指摘しているとおり、言葉として
強すぎる。けれど、それは作者の腹のくくり方だと思う。腹くくってるな、とい
う感じがする。 ('05/01/27 11:05:27)
- d :
あれ?これ手直し入れました?
黒人、白人の配置が換わって、
人種に関わるイメージの違和感を憶えなくなりました。
黒人にまつわる具体的な描写の後に
「黒人だった、白人だった」という件の台詞が出てくるのが良い。
「色彩」が「人間」になり、「人種」ではなくなった。
弄っていないのだとしたら、前のレスは俺の読み落とし。
これは良い詩だ。 ('05/01/31 20:05:02)
- 一条 :
みなさん、レスありがとうございます。
みなさんにご指摘頂いた
「黒人」「白人」の持つ言葉の強さについては、なるほどなあと思いました。
自分も、ある程度その強さは意識していたのですが、
その上で、その強さを利用して自然と人のなんやかんやを
描き切りたかったようにも思うのです。
強すぎる言葉だったかもしれませんが、過ぎたる差分を補足する描写は
必要はないかなと思いました。
dさん、手直しは入れてないです。気になる部分もあるのですが。 ('05/02/01 10:04:53)