さいごの地蔵盆に 少女はおかあさんにお化粧してもらい
お地蔵さんになる
かのじょの宝の箱はいっぱいになったので
しずかな感謝のきもちで 少女は鉦(かね)をたたき
年下の子どもたちにお菓子をくばる
つくつくほうしの行列が 昼さがりをあるいていく、
二度とくることのない夏休みをとむらいながら
お地蔵さんの少女にささげられる
原色の女の子のわらう顔 仮面のヒーローの生真面目にゆがんだ顔
少女のこころはなぐさめられる、
プールがえりの子どもたちのけだるい影法師にも
子どものまま逝ってしまった者たちの到来をつげる風鈴の音(ね)にも
「あれ、血がおちてる。いややわあ、夢みるわ」
踏みきりにたくさんのひとが集まっていた
ほんとうに線路にあったくろく泡だつものに
そのとき少女は繋(つな)ぎとめられた
真夜中に遮断機がとつぜん目ざめ
いのちのないまま もうひとりのおかあさんのように歌いだすのを
それから少女は何度きいたことだろう
その踏みきりのむこう側にならんでおられたお地蔵さん
おかあさんと日赤病院にかよっていた頃 かならずお参りしたものだ
白い顔を咲かせたお地蔵さん
おかあさんはその口に ひとつひとつ まっかな紅をさしていた
それからふたりで合掌した
とかれた手はふたたびへその緒のようにつなぎなおされた
もうながいこと少女はその踏みきりをわたっていない
籠からうずらがにげて そのむこうの空にはばたいていったのは
あれはなん歳のときのことだろう
いつのまにか募(つの)っていたあこがれが うずらの翼を鴇(とき)色にかえていた
まもなく少女は
日赤病院の打ち棄てられた裏庭のひんやりした土の上
ひとつの鴇色のなきがらとなるだろう
ひぐらしがけんめいに今日の暑さを終わらせようとしている
ラムネを飲みながら 携帯ゲームをしている男の子
友達になって。といっているその背中に
お地蔵さんになった少女はしずかに 遠いまなざしをそそぐ
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20071004_114_2365p
- 申士 :
はじめまして、申士です。作品自体のモチーフはとても面白いノスタルジックな印象を受けました。ただ、多少分かるところと分からないところがあるように感じました。批評のプロではないので、そこのところお許し下さい。 ('07/10/04 19:31:21)
- 稲村つぐ :
素直に溶け込んできて、とても印象深い。何度も読み返してしまいました。
>原色の女の子のわらう顔 仮面のヒーローの生真面目にゆがんだ顔
とか、
>とかれた手はふたたびへその緒のようにつなぎなおされた
素敵な描写がいくつかあるのですが、そんなことよりも、
作品全体から生まれる、「存在への手探り」、その「手」になって読者である私が触れていくような、不思議な体験をしました。
ああ、記憶の漂いは、存在となりえたのか。同じようなテーマに取り組んだ、他の方の作品をいくつか過去に読んだ記憶がありますが、この作品は、群を抜いて馴染んでくる。
この「馴染みやすさ」は、うれしいものでした。私も、いつかきっと取り組んでみたい。素敵な作品を読ませて頂きました。ありがとう。 ('07/10/05 01:01:40)
- 結城森士 :
こんにちは。
>白い顔を咲かせたお地蔵さん
>おかあさんはその口に ひとつひとつ まっかな紅をさしていた
>それからふたりで合掌した
>とかれた手はふたたびへその緒のようにつなぎなおされた
この描写だけ抜き出してみても、この詩がどれだけ洗練されているかがよく分かります。
目を留めて繰り返し読んでしまう箇所がいくつもありました。洗練された文章の組み合わせが素晴らしいと思います。
稲村さんも挙げていましたが
>原色の女の子のわらう顔
の表現は作中で地味ながら、とても見事な描写のように思います。
僕は感想を書くと切りが無いので短くまとめておきます。
読み手の感情をえぐるような衝撃的な文章が数多く見受けられます。
一見、ゆったりとした(?)リズムの詩に思えますが、不意に覆される表現が衝撃的です。
個人的に良いと思ったのは、隙の無い一連目と二連目の全てです。
ラストの1行もとても良いです。
読めば読むほど、自分の中で良くなっていく気がします。
とても良い作品でした、読ませていただいてありがとうございました。 ('07/10/05 10:57:15)
- 凪葉 :
こんにちは。
すごく印象に残る作品ですね。
稲村さんが馴染むと言っている理由がわかる気がします。
素敵な描写が溢れていて、
ちょっとため息が出ました。
上手いですね。
">つくつくほうしの行列が、昼さがりをあるいていく、 "
ここ良いなあ。
というか二連は凄く良いです。
気になったのはふりがなくらいかな?
親切だけれど、要らない方が良かった気も、しました。
勉強になりました。 ('07/10/05 12:36:15)
- 兎太郎 :
申士さん、はじめまして。
「ノスタルジック」な感じを受け取っていただけて、うれしいです。
ありがとうございました。
稲村つぐさん、こんにちは。
>作品全体から生まれる、「存在への手探り」、その「手」になって読者である私>が触れていくような、不思議な体験をしました。
こんなふうにこの詩を体験していただき、この文極に載せてよかったと思っております。「存在」の感触が表現できたらということは思いますね。
ありがとうございました。
結城森士さん、こんにちは。
>一見、ゆったりとした(?)リズムの詩に思えますが、不意に覆される表現が衝>撃的です。
リズムは大事にしています。「衝撃的」というふうに受け取っていただけて、うれしいです。
ありがとうございました。
凪葉さん、こんにちは。
過分なおほめの言葉をいただき、恐縮です。
ありがとうございました。 ('07/10/05 18:30:49 *1)
- 宮下倉庫 :
少女はまだ逝っていないようですが、既に逝ってしまっているようでもあります。視点は遠近をゆきかい、催眠術にかかったような気分にさせられました。特にここのところ。過去と現在が交差している観があります。
>踏みきりにたくさんのひとが集まっていた
>ほんとうに線路にあったくろく泡だつものに
>そのとき少女は繋(つな)ぎとめられた
>真夜中に遮断機がとつぜん目ざめ
>いのちのないまま もうひとりのおかあさんのように歌いだすのを
>それから少女は何度きいたことだろう
谷内六郎的なノスタルジーを醸し出している素材と描写の中には、谷内の絵に「ジフテリアで死んだ子」、正確ではありませんが、そのような題名のものがあります。日本のごとき「定期接種の普及している国では症例は稀だ」(wiki)そうですが、かつてこの国でもこの病によって子供の命が奪われる時代があったわけで、その辺りから今と接続していくテーマ、そんなものが封じ込められているのかもしれないなんて気もしますが、ともあれ僕はこの作品を楽しませていただきました。 ('07/10/07 22:44:24)
- 平川綾真智 :
拝読させていただきました。
最近読んだ作品の中で一番印象深かったです。
O音で整えられた二連目が意識にゆっくりと染んで、催眠術にかけられたときと同じ入り込みを体験しました。
素材の扱い方が非常に繊細で味わい深く感じました。
ところで、ルビはふらない方がよいように思います。
リズムで解りますし、難解な文字は調べたくなるだけの力がある作品ですので。
以上です。
失礼します。 ('07/10/10 20:59:52)
- 香瀬 :
こんばんは、兎さん。
静かに繰り広げられる不安定さが、これもまたふわふわした文体で淡々と語られる。
素敵です。すごく好き。
少女の存在そのものが不安定であるところに、
地蔵という基盤を放り込むことで、対比的に日常が異世界に感じられます。
「踏みきり」は、命を踏みきったものに対する通行可能な境界線のように置かれるも
むこうがわにいってしまったであろう少女が、少女として帰還することのできないもどかしさを、
さいごの「まなざし」が述べているような気にさせられました。
ルビに関しては私も必要ないかなと思いました。
見た目で損をしちゃっているように思います。
それと、
>携帯ゲーム
は、この雰囲気から逸脱してしまわないかな、と。
この単語を現代の象徴とおいて、時間の経過を今に接近させていると読めないこともないですが、
ぜんたいから感じるセピアの印象になじめない単語のように思います。
私だったら「鬼ごっこを忘れた」とかにしちゃうかもしれません。
それでは
香瀬 拝 ('07/10/10 21:08:46)
- 南倉 :
こんにちは、はじめまして。
よく練られていながら造られたもののにおいを感じさせない文章に惹かれました。
死というものへの敬意、なんて言うと陳腐で申し訳ないですが、この、深くつながりあっているのにどうしようもなく断絶しているなにかを捕まえることなく見守っているというか、let it be な感じがノスタルジーです。死とは懐かしいものなのですね。
歌う遮断機のくだりが好きです。
それから、詩は唯一オチのいらない文学だという刹那的な私見(真偽は別としてオチの意義を云々するための一時的な命題ですが)を云々しながら考えたことを最後にひとつ。
最終連でひとつの結末にすとんと落ち着いたのが、それまでの漂うような手探りの運び方とバランスが取れているといえばそうなんでしょうけれど、やっぱり我が家が一番ね的失望を伴うのではないかなあと。
すべからく宙ぶらりんでいてほしいなんてのは手前勝手なお話ですが。
ではでは。 ('07/10/11 03:25:19)
- 申士 :
こんにちわ。兎太郎さん。この作品にみなが催眠術にかけられたといっています。私は、これはこの作品の持つ独特の深みや味わいに言葉が尽きると思います。わたしも、眠りにつきそうです。まだ、昼間?(笑い) ('07/10/11 16:22:04)
- まおん :
こんにちは。初めまして。
最初、私は近づきがたかったです。「かごめかごめ」や「小さい秋見つけた」などのちょっと寒くなる童謡のようで。
書いていらっしゃるのは、男性ですよね、大人の。わからないんですが。目線が少女になっているので不思議でした、あまりにリアルで。
地蔵盆、子供の死…避けてはいけませんね。そして読まなくちゃいけません。映像のような詩でした。 ('07/10/12 17:27:44)
- 兎太郎 :
宮下倉庫さん、こんばんは。
>谷内六郎的なノスタルジー
そうですね。幼い頃の昭和の風景のことは、しんみり思い出すことがあります。
ありがとうございました。
平川綾真智さん、こんばんは。
>O音で整えられた二連目が意識にゆっくりと染んで、催眠術にかけられたときと同
>じ入り込みを体験しました。
O音のこと、ご指摘いただいて、はじめて気づきました。この調子を忘れないようにしたいと思います。
振り仮名に関しては了解いたしました。
ありがとうございました。
香瀬さん、こんばんは。
>むこうがわにいってしまったであろう少女が、少女として帰還することのできな
>いもどかしさを、さいごの「まなざし」が述べているような気にさせられました。
少女の視点で感じていただけて、この詩が深くなったようで、うれしいです。
「携帯ゲーム」に関して、
>ぜんたいから感じるセピアの印象になじめない単語のように思います。
とのご意見。ぼくとしては携帯ゲームをする男の子がやはりリアルなイメージなのですが。香瀬さんのご意見にも感じるところがあるので、心の中に置いておきます。
ありがとうございました。
南倉さん、こんばんは。
「オチ」があったほうが、ぼくらしいと、素朴に思っていましたが、
>最終連でひとつの結末にすとんと落ち着いたのが、それまでの漂うような手探り
>の運び方とバランスが取れているといえばそうなんでしょうけれど、やっぱり我
>が家が一番ね的失望を伴うのではないかなあと。
「宙ぶらりん」で終わって、詩になる、そんな詩も魅力的ですね。この詩もそういう詩になりえるのかもしれません。心にとめておきます。
ありがとうございました。
申士さん、こんばんは。
>催眠術
のように読んでくださり、ありがとうございました。なつかしい夢のような詩をぼくは書きたいです。
まおんさん、こんばんは。
>「かごめかごめ」や「小さい秋見つけた」などのちょっと寒くなる童謡のよう
>で。
そういう童謡、ぼくは好きです。詩を感じます。
ぼくは大人の男性です。
他者(少女)の感性には、開かれていたいと思っています。
ありがとうございました。 ('07/10/12 20:46:55 *1)