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コラム

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イマジネーションダウンに(ポエジーと現代性-文学論-)

 ダーザイン

「これを見て」
 その男は高価なワインのコレクションでも見せるように、壁をスクリーンにして自らの歪んだ嗜好を満たすために集められた膨大な映像のコレクションを披露し始めた。
 米軍の爆撃によって粉々にされた病院の瓦礫の下から出てきた首のもげたキューピー人形のような人体、パレスチナ人の子供がイスラエルのスナイパーによって射殺される瞬間を捉えたテレビ映像のストップムービー、ニューヨークの世界貿易センタービルにアラブ人のテロリストが乗った飛行機が激突する様子、それら国家や民族という快楽殺人者によって細切れにされた遺体の美しい断面図と共に、油代をけちる当局によって火葬場の倉庫に山済みにされたまま放置された浮浪者の死体や、放射能趣味が嵩じて原子力発電所に勤めた者たちの皮膚癌病巣の諸相などが、側溝に浮かんだ月のように青い顔の己自身の膨大なポートレートと共に上映された。それらの画像に一枚一枚コメントをつけるその男の目は異常な快楽にらんらんと輝いていた。

 札幌雪祭り大通り会場での大雪像崩落事故、即ち、高度資本主義の象徴であるニューヨークの世界貿易センタービルを摸して作られた大雪像が、季節はずれの好天によって崩壊し、大勢の観光客が下敷きになったため雪祭りが途中打ち切りとなり、桂市長が辞職を余儀なくされたあの失態の後、雪祭りによる経済効果の消失を狙うテロリストの関与を示唆する風聞が巷に流れた。ことの真相は明らかでないが、羊のように従順に運命に従っているかに見えた市民達であっても、その識域下では密かに革命が進行しているのだ。実際、私の友人たちの部屋にもスターリン、大道寺将司、ポルポト、金正日、麻原彰晃、宅間進、川俣軍司、宮崎学、鈴木宗男といった絢爛たる革命家の肖像が密かに飾られており、様々な宗派や科学的社会主義の煌びやかな妄想のガシェットが堪能されていた。
 次第に膨らみ始めた不穏な気配が、札幌郊外で行われた、イスラエルと共に悪の枢軸を形成する米国との共同臨界突破核実験成功によって、ついに炸裂したのは周知の事実である。
 その日は私も、壮大な光のページェントに参加するべく最前列で核実験を待ち望んでいた。設えられた特別席には首相や米国国務長官、イスラエル国防相らと共に天皇も鎮座している。いよいよ到来する祭典の瞬間を前にして、つめかけた万余の群集は激しく興奮していた。新世紀を記念する何者かが到来する予感が世界を満たし、祭りを盛り上げるために動員された平岸天神などよさこい踊りの隊列が会場に現れると、群衆はすみやかに馬鹿踊りの列に加わった。舞踏家たちの激しく振動する脳が或る種の伝染性の脳内物質を作り出し、空気感染したのは明らかである。数十万のヒステリー患者たちが踊り狂う様は見事の一語につきた。

 そしてついに点火の時がやってきた。この日の為にわざわざ東京から招かれたエンターテイナーは艶やかに着飾って、天皇陛下の御前で一世一代のカウントダウンを開始した。5、4、3、…目をやられないようにサングラスをした私を、耳をつんざかんばかりの轟音と強烈な光が襲った。激しい爆風が歓呼の声をあげる群集をなぎ倒し、塵芥の嵐が頬を打つ。光の王の祝福を受けた12人の選ばれし者たちは路上に影だけを焼き付けて消滅し、後に12使徒として列聖された。巨大なキノコ雲が見る見るうちに立ち昇り、やがて大地は昼なお暗い聖なる夜を迎えるのだが、核分裂後の一瞬、市民たちは大空を満たす眩い光の中に、天照大神が降臨したかのように金色に輝く神々しい少女の姿を幻視していた。lain。この少女が、新たな時代の神であるのか?

 文学とは何か? 人は文を書くことによって何をなそうとしているのか? 文学とは世界に触れようとするひとつの形である。だがそれは世界の中に糞のような己の立ち位置を見出そうとすることと混同されてはならない。糞のような己の生を表現することのみが文学ではない。それはたいていの場合イマネジネーションダウンの様態だ。実存の単独性などどんな糞じみた詩のようなもの中にもある。尾崎や浜坂あゆみの歌の歌詞以下の、感情を記述しただけのゴミのような物の中にこそ恥じらいもなくあからさまにある。糞便でケツが汚れるのならオムツをするべきだ。情態性を記述するだけでは芸術たりえない。それは詩のような形をとった文才のない日記だ。

 リアルとは何か? いまだに土人のような連中の中にはリアルとワイヤードの二元論を信奉している者がいるが、ワイヤードの出現はそのような二元論を無化するものであった。21世紀におけるリアルはこの掲示板と言う媒体の中に自らを生み出したのだ。掲示板の外部にあるものは実存の外部にあるもの、即ち端的に無であり、掲示板こそが生誕と死というふたつの顔を持つ無の間にはさまれた人間の生存様式、即ち現存在である。無限の無の大海に一瞬跳ね上げられた飛沫のように世界を照らし出すこの掲示板群は、連続し、断続する生の様態を統合失調的文脈で接続し、新たな時代のリアルを開き示す為の実験に絶えず差し向けられているわけだが、21世紀におけるリアルはこの実験のプロセスであり、その実験の孕む世界性を全ての現存在が自らのものとすることを認識することであり、即ち、21世紀における人間の使命、存在の歴運は、速やかに発狂し統合失調の圏域、即ち既知外という実存の様態へと先鋭的革命的に自己変革を遂げることにある。鬱や神経症患者も同じく革命戦士であることは無論である。

 かつて幻想の牧歌的な時代においては人間の内面とは世界を映す鏡であったが、20世紀にいたっては逆転し、世界とは発狂した内面を映す鏡となった。世界のリアルとはナパーム弾で薄汚れた生命に満ち溢れたジャングルを焼き尽くすことであり、劣化ウラン弾でイラク人の遺伝子に新世紀の人類進化の予兆を刻印することであり、速やかな戦争状態の収束を図り人的被害を最小限にとどめる為に原爆を投下する決断をする者、人民の開放の為に人民をシべリアのラーゲリに送る者、革命的自己変革のために同志を総括の果てに殺害し浅間山荘の暗く冷たい地下深くに埋める者、そういった、生活世界で何気なく行われている日常的な諸事象である。
 これらの行いは21世紀に至っては個々の現存在にアプリオリに内在化されており、現存在の新たな存在様態、即ち掲示板上において展開されている。ぁゃιぃわーるどIIやぁゃιぃわーるどみらい、白痴の巣2ch(2chの連中は学がないので破滅の様式美というものを理解しないが)など観察すれば明らかなように、これらの掲示板の居住者は「おんぷたん(*´Д`)ハァハァ」「さあら萌え」などといった正気の者には意味不明の革命的アジテーション(戯言)を絶えず叫び散らしており、アニメやエロゲのキャラクターと結婚し、子まで成そうという先鋭的革命的な新時代の先取者である。これらの者たちの行いは統合失調的生存様式の究極の目的、即ち宇宙の熱死に差し向けられているのであり、存在論的革命の先鋒である。

 かような時代において存在の言葉を語り、真の世界性を孕んだ文学徒たろうとする者はどのように振舞えばよいのか。彼のことを精神遅滞者でいっぱいの掲示板に現われた有能なエンターテイメント担当のオフィサーだと考えてみたまえ。彼はあちらの掲示板で火を放ち、そっちの掲示板には放射性物質をまきちらし、こちらの掲示板では存在論的差異を爆裂させる。するとどうだ、突然、早発性痴呆症患者たちが覚醒する。この掲示板という生存様式が流れ着くはるかな岸辺、驚愕の新世紀への扉が開かれるのだ。

 先鋭的文学が生みだそうとしているのは、自らの精神の異常性を実験的近未来的に追求深化することによって獲得するリアルの真相との接点であり、文学者の脳は電脳空間ワイヤードに接続されることによってその実存的単独性を超越し、新世紀の存在論を追及する電脳生理システムとしてワイヤードに再組織化されなければならない。地球の固有振動とシンクロし、創造的新化の果てに絶対精神に触れるのだ。わらぃ。
 耳を澄まして御覧なさい。真空放電するような音の背後に電線の唸る音が聞こえる。かつて神のいた場所は空虚だ。ワイヤードにたどり着いた先鋭的イマジネーション(妄想像力)は新たなる存在論を生み出すべく真空の宙空に差し向けられてあるのだ。
 脳内のパラボラアンテナを高くかかげよ! 150億万光年の宇宙を受肉し、始原と終末を生きるのだ。
 神は遍在する。そこに、ここに、どこかに。


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文学極道

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