壁にも 空いた、うすぐらい
みつとみ '16/10/26 21:18:41壁にも 空いた、うすぐらい
あることに気づかれず
探せば見つけ出すことができる
半ズボンが壁から抜け出してくる
小学校のひび割れた校舎
蹴られる背
水の張った校庭
町工場の錆びたトタン
敷地のバラ線が絡まり
ペンキ臭い鉄骨の体育館
頭から落ちる床
台風の後の空き地に朽ちたブロック
住宅街近くの忘れられた防空壕のセメント
工事現場の貯水槽のシルエット
公園の古い壁に
ひとりでボールを投げつづける
身をすぼめてくぐり抜け
たしかな光のほうへ抜けようと
砂場でみなに囲まれて踏み続けられ
胸にも 空いた
見ることもできずに
望んでもふさぐことが難しく
さとるに語ることができない
気づくよりも重くなった体をひきずって
叫ぶこともできずに唇をかみ
己のやせた胸へと戻っていく
ただこもってしまう日々にまたひとつ空いていく
いつもは隠れている
ふとしたときにその向こう岸をみせてくれる
草地の犬が背をまるめる
壁にも 空いた、うすぐらい
夕暮れに団地に帰っていく
行き場のないランドセルの背
天気雨がふりそそぐ、塀に囲まれて
ジャケットの襟をたて、ゆっくりと天を仰ぐ
*近日、Amazonで販売予定の「狼」29号から
次号以降の参加者募集中につき、関心のある方はメールにて。
水
みつとみ '16/08/12 18:55:00 *3 はがれた爪のように 水面に言の葉を散らしていきます
白い光の底として
たゆたう水が満ちていきます
明るい音がしないのは 洞窟に光がこもるから
わたくしの 腕から
ほら 目が 生えていきます
わたくしの二の腕から
目が いくつも いくつも
生まれては そう 増えていく
うっすらと その目が 開かれ
なにがほんとうでなにがうそで
なにひとつ悪いことをしていないのに
信じることができずに あなたの指を落としていきます
音がして あかい血が水面をただよい
きれいにうずをまくころ
指が くらがりの底に 沈んでいきます
あなたに 知ってほしくて
わたくしの肌を うすく一枚そぎます
そうして あなた の 指 が しずむ とき
わたくしの腕に 目がひとつ生まれます
わたくしの肌が そがれるとき
わたくしの脚に 鱗が一枚うまれます
わたくしが たくさんの目をもつ魚となったとき
あなたは
ひとつの洞窟につつまれた湖となって
暗い底から光をたたえます
しずかに憂いながら
泪のかわりに真っ白な微笑みをうかべて
横たわっているのです
あなたは わたくしという洞窟にとじ込められた
泪をたたえた 湖なのです
あなた の 指 を おとしては
はだを 一枚そいで
いきものの水がたまって
わたくしの腕に 生えた目が濡れてひかり
わたくしの脚に エメラルドの鱗がうまれて
その光を底として
いのちの水が満ちていきます
その紅くとうめいな水をのんで
悲鳴を偲びながら 爪のような言の葉を漂わせていきます
ほの暗い過去が髪の長さとなり
裸の背に月の光を浴びながら
わたくしの胸に抱えられて
あなたの眠った蒼白の顔が微笑み 水底から浮かび上がります
*本当は縦書き中央揃え
うしろ背
光冨 '16/02/24 23:14:17そのうしろ背の壁に
白い顔が浮かびあがっている
まっすぐ見ている眸に
群れのひとたちの歩き出しに
くすむ羽をすぼめている
行き交うひとたちには気づかれない
そのあおざめた空には
遠くうすくのびる雲が逃れている
そのうしろ背が舞っている
小さい点の旋回に
羽根の白さが落ちていく
空のペットボトルのなかに
乾いた風の音がこもっている
胸のこげた臭いを
コートの襟に隠して
眉をひそめてさまよっている
街角で配りものをする肩に
触れてはわるいから
空が雲に覆われて
湿り気をふくんだ風に
ひとが通り過ぎても気づかれない
街の表示がはがれ落ちた死角で
影がひとついなくなった
靴のかかとを気にして
膝をまげて深い帽子を落とす
その曲げたただひとつの背に
街の空が引っ掻き傷をつくる
還っていくひとたちには気づかれない
建物の影に消えていく
うしろ背にまたたく光がまぶたを開く
あばら家
いとう '05/01/01 11:46:55
とかげの足音を拾っていくと
「かげろう」と呼ばれる庭で行き詰まった
兄さん
あれは生き別れの兄さん いいえ
姉さんだったかもしれない
が、
見えたりもする
通りすがりの犬に
犬ころと名前をつける 犬ころ
犬畜生でも良かったかもしれない
猫なんて名前はつけない
自由ではないから
あばら家は何かの手違いのように
窓のようなもので区切られていて
その揺らぐ影から
臭い立つものの名前を
聞いたことがあるような
気がしているような
自由と臭い消しはよく似ている
兄さんがそう言っている
姉さん
だったかもしれない
も、
揺らぎ始めていて
とかげは最初から
とかげの足音でしかなく
犬ころもやはり
揺らぎ始めていて
私の足には根が
生え始めていて
私の足音が
拾われるのを
待っている
そこにいる
根を生やしている
とかげのように
暖かい感触
平川綾真智 '07/03/15 15:32:13 *2― 楽あれば苦あり 苦あれば楽あり
そう呟いて生活を、な
描き続けた。ずっと、ずっと。
まぁ、はっきりと解ったんだが
ありゃぁ 、 嘘だ。
描いた年数を観つめたら、
苦しかモチーフなんて無く
楽なんざ何処にもありゃしない。
うん。だけど、だな
描ききった苦の先に 見つかるんだ
言い難い色が。
塗り込めたい色を手にして
私は、筆を止められやぁしない
顔に叩き付けてみた湯は 脳裏に恩師の言葉を被せる。
露天温泉に浸かる今日 見上げた薄く延びる紺へと
上る乳白の雲を描けず、あえぐ私の脳裏には
恩師の言葉が流れ続けた。
土が寝呆け、欠伸し吐き出す 朝もやいに包まれて
霞んでいった私の中身。
昨日までの生活が熟む、こびりついた汚れは重く
あえぐ筆の動きを鈍らせ 紺に雲は上らない
身体を静かに湯で擦る。
もやいの中で、霞むことない恩師の言葉
そうだどうして 土の寝呆けた欠伸などに
恩師の言葉が霞むものか
立ち上る脳裏へ私はますます、静かな擦りを太らせる。
擦れば中身に霞みは消えて あえいだ筆は軽く動き
再び見上げた延びいく紺。私が描く乳白の雲は
見事なまでに上り行き、そうか
全ては擦れば落ちるのか なんだ
心の汚れは 、 水性か
薄い紺へと乳白は 色彩を変えて上り続ける。
私が描くこれからの日々は 言い難い色に全て、満たされ
決して筆が止まることはない。
まだまだ包むもやいの中 いつか空の先までも
必ず描きあげる私。
伸ばした筆へ湯を叩きつけ 私に私は、期待を上塗る。
描き出された未来へと、浸かる
恩師がくれた暖かい感触。
これから熟み来る苦が全て
楽しく 、 私は仕方ない
悪魔の子ども
ケムリ '12/02/10 23:26:55 悪魔の子どもが生まれたって、言わないで欲しいんだ。カシミールで毛皮を売っている彼の、その柔らかい頬に浮かんだ笑顔みたいな、そういうところで生きていこうよ。僕はスリーポイントシュートもあまり上手くないし、タップダンスも上手に踊れないけど、いつまでも林檎の皮を剥いているみたいな顔をして生きていたいよ。
ねぇ、そんなに人生に期待をしなくなったんだ。そういうことはおきてしまったんだろうし、おきてしまうだろうことだったんだ。それはそういうことだ、と思うことにした。そうじゃないと、自分も他人も許せなくなっちゃうからさ。いいかい、キー・ポイントはこういうところだ。君の身の上に起きたことはぼくの身の上にも起きるかもしれない。だから、君は独りじゃないよ。
向き合うべきだ、と思うこともある。例えば、リビアだかどっかその辺りで罪もない市民が撃ち殺されたとか、名前もそんなに有名じゃないアフリカ大陸のどこかで、今日も小さな女の子が飢えて死んだとか。そういうことを悲しむのは、歳を経るとずいぶん簡単になった。だから、僕はムガベさんを責めたとしても、君のことは責めないよ。ハロー・ハロー・聞こえますか。どこまで生きても寂しかったんです。だから、色んなことがそれでいいと思えるようになりました。
悪魔の子どもが生まれたって、風の噂で聞いてしまったんだ。それはきっと生まれたんだろうと思うし、君の空っぽの子宮の中を吹き抜けているその風には、ぼくだって覚えがある。誰も責められない、それどころかどこにおいていいかもわからないような荷物が、突然背中に乗りかかるんだ。ぼくだってそれくらいのことはわかる。だから、君のことを僕は責めない。出来ることなら、世界中の誰のことも責めたくない。そういうことは、サダムさんに任せておきたい。カダフィさんはきっと、煙草の値上がりを気にしたりはしてないだろうから。少なくとも、ぼくは煙草の値上がりを気にしたり、税金が上がって落ち込んだりするような人のことを責めたりしたくない。
空っぽの冷蔵庫しかない部屋で生きてるみたいだよね。ドアを開けて、溢れた光の中でさ、何かが何度か羽ばたいたんだ。そういう夜を、みんな越えていくんだ。空気の粒がぶつかりあう音が煩くて、眠れない夜だってある。でも、君は夜を越えたんだろ。悪魔のことは誰かがきっとどうにかしてくれる。大量破壊兵器だって見つからなかったけど、世界は結構なんとかなったじゃないか。君は新聞の一面をみて、ちょっと気の重い月曜日で生きていこう。ぼくもそうするよ。
君は独りじゃないよ。だから、ぼくも一人にしないで欲しいんだ。だって、ぼくはフリースローが入ったことがないくらいの男の子で、踵の潰れていない靴の一足も持ってない。きっと何かが間違ってたんだ、やるべきことをやらずに過ごしたんだ。寝過ごした日曜日の午前中に、ロケットは発射されてしまった。そんなことはわかってるんだ。悪魔の子どもは生まれてしまった、なにもかもがどうしようもなく掛け違ってしまった。そんな風になるべきじゃなかった、でもそんな風になってしまった。だから、君も独りじゃない。ぼくの好きなタイプの神様は、空気と同じ色をしているから誰にも見えやしない。彼の肌の色はよくわからなくて、でも彼は悲しくて、悲しくて、気がくるってしまったんだ。遊園地のメリーゴーランドで、いつまでも独りくるくる回っている。でも、これだけは大きな声で言わせてくれ。彼は、君のことが、大好きだった。
気持ちよく晴れた昼下がりのことを考えよう。悪魔の子どもが生まれたとき、君はもう独りじゃなくなったから。いいかい、ぼくは牡羊座のあいつは好きじゃないから、まるで正しい人間みたいな顔をして、石を投げるんだ。泣きながら、笑いながら、いつまでも君は白人ではなく、黒人ではなく、ぶぅん、と鳴る冷蔵庫のうなりの中で、君たち、いつまでも空っぽの子宮で、どこまで生きても寂しかったんです。彼はいつまでもくるくる回りながら、それでも君たちのことが好きです。ねぇ、君は夜を越えるんだろう。ロケットは行ってしまった、津波が何もかもさらっていった。でも、ハロー・ハロー・ハロー、聞こえますか、聞こえますね、ぼくも独りじゃない。ハロー。
光の表にて
みつとみ '16/07/08 23:49:28こんにちは こんにちは
いつのまにか
そう いつのまにか
わたくしは しろい光の表にて 目覚めるようになっていた
なまえは 知らないけれども 顔みしりのひとたちと
なにかしらの話をしている
むきになって 正しさをぶつけ 自らの言葉の角で 痛みを覚えている
自分のことなのに くわしいことも よくわからないけれど
覚えのない ことがらの ことばを 交わしながら
緑の布地を 一人ひとり みなで編んでいる
裏は あるのか ないのか
みなが微笑む うっすらとした 表にて
(まぶしい 熱いほどに まぶしい
触れているのは
昼間の 計りの糸か
真夜中の 熱情の糸か
(わたくしは いったい 何を知っていて 何を知らずにいるのだろう
沈黙している 時の波が 打ち寄せて
ぼんやりとしたわたくしを 浜辺まで はこびあげたのは
青い糸で 編まれた 息絶えそうな《生の舟》なのか
それとも 赤い糸で 編まれた 青白い熱き《死の舟》なのか
(わたくしは 何処(いずこ)の世界に 在るのだろうか 無いのだろうか
うつむきかけたその顔を
そっとあげると
やわらかな しろい光に 注がれて
恍惚の 微笑みをうかべる
青白い 時が たちどまって
わたくしに 手をさしのべていた
額がきしむので
傷をなぞりながら 波間にただよう
仰ぐのは その白さに縁取られた 真っ青な空
光の表にて
何度でも死して 何度でも生まれて
青蛙の腹に 爆薬で繰り返し遊ぶ 子どものわたくしたち
誠を信じて銃殺される 白シャツの青年たち
緑色の糸で編み物をして いつかと待ち続けている女性たち
光の表にて
もう会えないはずの 恋人たちが 死して 再会をしている
(こんにちは こんにちは
こんにちは
ほんとうに
そう 光の表にて あれは光の表にて そして光の表にて
抱き合いながらも すでに目覚めることのできない わたくしたち
(こみあげてくるのは わたくしたちの尽きることのない息吹なのです
暦
みつとみ '16/07/16 20:28:10ちぎった耳のような暦の頁があり
「もう自分は大丈夫、と
微笑むけれども
通り過ぎる風の縁に
ふれると
沈黙してしまうのは
「まだ 傷がなくなったわけではない
水面(みなも)に和紙がすべり落ち 白い影を浮かべる
(いえ、受けた傷は痕として残ってしまうのです
正しさとは何なのか
少なくても「自分は間違っていないと
いくら訴えても だれも耳をかたむけて
うなずいてはくれないのは
夜中の電車が走り去る音と
風の音が 胸に共鳴するからか
あなたは そんなとき
書斎の机に向かったまま
聞こえないふりをしたり 怒ったり 理屈を言ったり
でも わかるのは
あなたも傷付いているということ
目を合わせないのがその証
だとしたら
(だとしたら どこに この思いをぶつければよいのでしょうか
あなたは過去というけれど
わたくしにとっては 現在とおなじこと
胸の皮を一枚 いえ 暦を一枚破り捨てる
破り捨てた
その一枚の肌に いえ 一枚の紙に
水面にまた和紙がおちる
あなたは そっと 拾い上げ 自分の胸の奥の
わたくしには見えない 深い暗がりに 落としてしまった
白い暦がちいさく舞いながらやみに消えていった
「お別れはいわないのですか
「苦しめ続けるのであれば もう お別れしてください
「わたくしを染めないでください
白い和紙が 幾枚も水面に浮かび 赤紫に染まっていく
(そんなわたくしを あなたは おさえつけ
おさえつけ
(なにを熱く叫んでいるのですか
どうして
(どうして 出会ってしまうのですか
あなたの声は聞こえない
あなたのこころがわからずに
ちぎった暦があり ちぎった傷があり
ちぎった写し絵があり ちぎった布があり
ちぎった文があり
そして あなたは叫び
(つもる紙が海を覆い尽くしていきました
いつまでも わたくしは あなたを見守りつづけ
(つもる紙が海を覆い尽くしていきました
「あなたはなにをみて どこにいるのですか
わたくしのとなりにあなたがいることがわからない
のに
あなたはずるさ故に眠っている
空無通信
ダーザイン '04/12/25 00:04:37放棄された埋立地を
一体の透き通った者と
連れ添って歩く
雑草に覆われはじめた
アスファルト面のそこここに
立ち昇る無の陥没痕
ほつれた放心の縫い跡から
冷気が放たれる
死の語り部たる永久凍土
遺跡化した新造建築物の合間を
一瞬の襲撃が
鳴りとよめかす
コーラ缶の放擲軌道
瓦礫の中の坂道を下る中央基線
片道三車線の
三位一体の
空無
いら草
コスモス
採り入れられた二番草の茎
おまえが通りを行く すると
空無が通り過ぎていく
風が
ただ透き通った風だけが
野を分けていくのだ
風は三度現われる
放擲と
放心と
今再びの放擲と
振り仰ぐと
身を捩る陽光
とりわけ巨大な陥穿の底
放物線上の斜面から
見上げる斜面に逆光を担い
静止する積雲の輪郭
一筋の冷光がお前を射る
光の剣に貫かれた者が その
放物面の焦点位置へと
焦点位置へと
浮遊する
立ち昇る
脱自する
球面収差に歪む視界に
現われる
再度現われる一本の線
待機する場所
空無通信
# 漏れも嫌がらせのように小難しいのを貼ってみる(´ー`)ニヤニヤ
シルビア (改訂版)
コントラ '09/01/10 18:55:40
シルビアは恋人の兄のマルコスに「デブだ」とからかわれても、黙って
顔をそむけるだけだった。雨上がりの日曜日。表通りのアスファルトか
ら湿った風が這い上がり、リビングの古びたテーブルクロスの上では、
錠剤の袋がかすかに音をたてている。門の向こうに車がとまり、礼服を
着たシルビアの家族が午前のミサから帰ってくる。彼らは部屋に入って
着替えを済ませると、すぐにまた車に乗ってでかけてゆく。シルビアの
家族は、小さな二人の弟もふくめ、みんな太っている。国境を越えて輸
送される黄色やオレンジ色の炭酸水は、この国の神話のプログラムを見
えないところで書き換えている。
パウンドケーキのような熱帯林の中央基線が交わるあたりには、巨大な
ショッピングコンプレックスが午後の陽を浴びて白く光っている。シル
ビアによれば、ここのフードコートで売られているピザやフライドチキ
ンは、母がつくったものとは違う味がする。しゅわしゅわと口のなかで
溶け、まるで宇宙食を食べているような感じなのだ。シャーベットのよ
うな冷気が充填されたフロアを出ると、シルビアの家族は地平線が見え
るハイウェイに車を入れる。後部座席では、シルビアが朝からの物憂げ
な表情で窓ガラスに額をあてている。いつからか、彼女の視界には光る
綿のようなものがちらつくようになり、体のだるさはいつまでたっても
直らない。
シルビアの父がいつも赤信号で急ブレーキを踏む、環状道路の交差点。
車の列が停止すると、安物のキャップをかぶった物売りたちが寄ってき
て、小さな押し花やボトル詰めの炭酸水を売り歩く。汗ばむ褐色の腕に
握られた炭酸水がきらきらと熱を放射するのを見まもるシルビア。排気
ガスで黒く汚れた壁と、炎天下に立ちつくす売り子たちの姿が無声映画
のカットのように映り、アクセルを踏み込むと視界から消える。ドライ
バーの目線をはばむ鋼鉄の防音壁の外に広がる原生林のむこうには、板
きれやダンボールで風をしのぐバラックの群がゆるやかな丘の中腹まで
続いている。
あれは小さなころ、縫いぐるみを抱いて祖母の家に遊びにいったときの
ことだ。眠たい目をこすりながら飛行機がこの街に着陸してゆくとき、
砂粒のようなの電灯の群が、この丘のうえまで這い上がっているのを見
て、シルビアはベッドカバーに落ちた宝石のように、それらを手にとる
ことができるような気がしていた。いま、そこから数百メートルも離れ
ていない、なめらかに舗装されたハイウェイを、日本製のセダンは滑っ
てゆく。道が緩やかにカーブしていくと、フライドチキンの広告塔が回
転しているのが視界の隅にはいり、そのむこうには広く青ざめた空が緑
の地平線をすりきりの地点で飲みこんでいる。
夜警
ダーザイン '06/04/14 04:41:04風の強い夜だ
下弦の月のまわりに
虹色の光の輪を作っていた薄雲が通り過ぎる
窓辺に焼きついた油色の日々が
ガラス板から流れ落ちる
星々がさわさわ震えている
明滅する交通誘導棒を持ち
人明かりの消えはじめた
薄ら寒い夜の街角に立てば
ビルの影が微かにゆがみ
闇がほのかに光り始める
夜の精たちの
永遠のあやとり遊び
人通りがなくなると
思いはどこか遠いところへ
寂しい海辺へ
或いは
懐かしい見知らぬ景色
草原の千の舌が
湿気った夜風にざわめき
存在しない女の形をした塔が
しずかに
しずかに
燃え上がる
夜もふけて
深夜便のトラック乗りが
時たま通るだけになる
永遠の合図を待つ歩哨のように
赤い光の警備棒を振りながら
テールランプの明かりを見送ると
頭上の電線が
かすかに
かすかに
ざわめきはじめる
あなたはどことどこを繋げているのですか
あなたは神様のいる場所に繋がっていますか
あなたは知っていますか
つながれることのない手のぬくもりを
風の強い夜だ
俺のサイフには
黄色く色あせた写真が一枚入っており
きっといつまでたっても
捨てることはできないんだろうと
そんなことを思う
#身体性について批評を受けたので、この詩を貼ってみるよ(;´Д`)
こんなに泥臭いのはあまり書いたことがないな(;´Д`)
「消滅」についての各氏のレスについてのレスは近日中。
やっと落ち着いたので。
夜の子
みつとみ '15/12/23 23:43:02はじめに くらやみがあって
(ここまでくるのにながい夜をくぐってきた
一枚いちまい重ねられていく
生まれるまえは
まったくの やみだったと
うすぼんやりとした
陽だまりの まえにすわって
鍵盤を たたいている
ちいさな 私を 私はみた
とざされた 窓を
やっとの 思いで あけても
そこにはまた とじた窓があり
その窓をあけても そのむこうに
窓が いくつもつらなっている
たゆたう くぐもった水に うかぶ 子
なにもかも 信じられずに
目を とじたまま
身を ちぢめていた
求めてみても みちたりることはなく
それでも 求めることをやめられないのは
この地に 私の 居場所がないから と
いつのころか うすやみが あって
私のなかの まったくのくらやみが
光る海の 底になって
やみが あおく 輝きを はなち
子 が ただよっている
うすやみにも
まったくの くらやみにも
とうめいな 光が さすことを
ひとたちは 黙せずには いられない
わすれさられてしまった ひとにも
陽の光は ふりつもるのだから
私は ついていくことにした
(そのひとは ひとの 祈り だった
陽の 光を みあげる
祈りは しずかに みちていく
そのひととの あいだに 生まれる
しずまりが
目と口を とじた子 となって
背をまるめ 手足をちぢめて
私のまえに 浮かんでいた
その子が くらがりにきえたあと
私は その祈りのひとを
ひっそりと 抱きしめていた
重ねられていくのは
私が生きてきた みちすじ
私の 傷あとと その祈り
そのひとの よこ顔を 私はみつづける
(そのひとは ひとの 祈り だった
Program: ealis 3.0.10 + BUNGAKU GOKUDOU