こえを失って一週間が経ちました。
日記の上ではまえみたいに話せています。
少しばかりかぜがあたたかくなってきましたが、
相変わらずかわいたままの空気が、
はねを舞わせているのが見えます。
地面が緩やかに溶け出して、
足場はガラガラと崩れ落ちて、
それでも膨れた身はなんとか、
指先を針金にひっかけて、
何につかまっているんだっけ。
私が私であることを、
私に問いかけるために、
紙とペンを経由して、
電磁気と光に頼って。
いつしかわからなくなる私のこと、
ちゃんと思い出せるように、
日記の上ではちゃんと話しています。
呼吸が早くなって、
ゆっくりになるのを感じます。
選出作品
作品 - 20201117_663_12227p
- [佳] 春 - 山田はつき (2020-11)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
春
山田はつき