選出作品

作品 - 20201001_271_12134p

  • [優]   - 黒羽 黎斗  (2020-10)

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  黒羽 黎斗

倒立した壁は全て崩れている
(泡の内側は外へと向かう)
淀んでいた周囲は過去ではない
(口の中には走り回る森の群れ)
方角の向こう側から光が飛んでくる
(四季の乳房、道の消失)
振動している空洞の外側には形状という枷
痴れ者である樹々の幹から滴る樹液は
核融合で消えたいくらかの質量は、右目に宿っている
被い切れなかったことを知っている

淡くなろうとした血痕の脳裏では
見境のなくなった幾人もの星屑が、流星になろうとした
顔から出ていこうとする霊魂たちは一つの管であり、
役目を終えられず、手を胸にあてる

回る僕、回る私、星、四つの指と、一つの手

鹿の雄は、移ろいに宿り
鹿の雌は、暗がりに宿る
同じ脈を通わせて、思慕の中にいる
見渡す限りの全ての中の、真っ只中に
居座っている

空の端を掴み、息を吐くと
そこから私たちは居なくなる

荒れた原野が、背中に迫る
恐ろしい人、首に、赤

潰した紙屑が、広がっている

回転の、振動は、止まった。