俺は、その想像より転落をして行く一艘の国家だった
ポオは言う、明晰な詐術は科学へ擬態をするだろうと
科学は、俺という肉体像を動かしめながら
誤謬なき再現性、その絶対的定義の中で
俺自身を蝕み
心臓という、時間の暗示を
脳髄という、観念の拠点を
俺と言う存在の確証を
もはや重量の孤絶の外にしか発見しないだろう
一体、誰が汚染したのか
集合という、個の観念を
理性の総合体は、俺自身の肉体より、実体としての証左を剥奪し
科学は、唯一の条理を保障する
明らかな
明らかな誤りを証明するその実体を蔽い、
国家の、所属する社会の普遍は、
俺という一つの国家を糾弾し、
個の同一性に帰属する、
凡庸に、
俺を沈め、俺としての約条を攪乱する、
一把の象徴を容易にも呑ませ、調和という承諾を得ようとした
しかし誰が、俺という一つの国家を侵犯し
審級する手筈を調えたのか
俺自身へと退行をした国家が
なお国家である理由には果して定式がなければならないのか
なぜ火炎瓶は投擲され
なぜ報復は実行されたのか
誰が虐殺を指示し
誰が民族を分断したのか
記念像に逃れた廿日鼠が
その礎を齧った爲に押し潰されてゆく
俺からの出口は
俺からの出口は
俺からの出口は
観念を抱えて立ち上がる
シシュポスが自らの岩を両腕に堪えながら、苦役のなかより呻き
国家は、
墜落して行く国家は
俺でもあり
俺ではない獄舎の壁に定式となり記録をされ
記録は、記録自身よりその現実性を把握するだろう
出口が開かれた時、
書かれる前から言葉はあり
俺は俺自身の塩の柱を町に刻んでいたのだ
選出作品
作品 - 20200717_638_12013p
- [優] 国家 - 鷹枕可 (2020-07)
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国家
鷹枕可