あなたの場合だと
生息域にそぐわないんですよね
このままだとちょっと
お引越しを
されたほうがいいかもしれません
おまけに書類の不備も云々、などと
しぼりたての雑巾みたいだな、
友達はそう言ったっけ
曇天色のクリアファイルを片手に
宙に浮くような気がしていたよ
それで
じわじわと湿った砂に侵されていく
ひとりの女の話の続きを
友達は続きを言わないまんまで
故郷の海と並行した
新しい国道の
真下を掘られたドブ川にある
朽ちそうなブロックに座り
汚らしい図鑑を片手に
オオハムとか/ウミスズメやら
海鳥をじっと待っているのだっけ
黙っていても彼の中では
過程だけが猛烈な速さで通過するのだろう
だからきっとあの女も
とっくに砂の像になったんだろう
ぼくは生息域を見つける旅の
途中で行き倒れるだろうし
もう友達にも会えない
まして ドブ川近辺の再開発のせいで
あの鳥はもう
二度と来ないなんてとても言えない
髪の毛を抜かれたような別れを
ぬるま湯にひっそりと浮かべると
夏とは思えない涼しい風を感じる
いくつもの白い紙が
何も書かれていない紙が
風に乗って
紺色の
指輪の沖へ
流れるうちに砕けていく
ぼくははるか遠くからやってきた
そして誰のものでもない
責任に答えようとしていた
選出作品
作品 - 20200514_111_11892p
- [佳] Habitat - 鈴木歯車 (2020-05)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
Habitat
鈴木歯車