選出作品

作品 - 20191109_779_11548p

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玄関で脱いでしまった靴のせいで 足に傷をおう

  村田 麻衣子

ガラスは目にみえないんだな
白い浴槽に ぜんぜんたまらないわたしの血液
こんなにいたいのにぜんぜんながれない
傷が、大袈裟に見えるものばかりを芸術と言われてかなしくてくやしい

あなたの眠りが深いときだけに 発作は 静まっていくけれど 気のせいか 嘘じゃないかって 時計を何度となく見ている
鮮やかなまでに、
洗いあげたのだがまた
それいじょうに 毎日の虜になってしまう彼ら

「ここまでいっちゃいけないことを、カレンダーに書いたのに ひどい言葉をまた繰り返し言うのね。」
「今日の欄には、なにも書かれていなかった。日記みたいに思っていたけれど、 寝ているあいだに何か書くのなら日付と時間を記すのを忘れるな。」

飼い慣らせないでいる怯えている子がわたしみたいで不憫 トイレにもう使わないCDプレーヤーを再生して置いた
臭いを落とそうと何度も設備を洗うのだが、
きみを洗うのには、いつも罪悪感がある。
きみを失いたくないからだ。
石鹸の臭いはあなたと混じった途端からもうあなたではなくて それは あなたのお母さんみたいにもう跡形もなく
石鹸は溶けてなくなったあとに あのこはうまれるのでしょう
わたしのかさかさの手 足には、きらきらとひかるガラスだけが、残っていました。