冬に届けたあなたへの愛の言葉
追憶はあなたとの対話に変えられてわたしの前に立ちはだかる
残月の夜明けに海が光り水が青く呻く頃
ふたりして歩いた洞窟でわたしたちは貝殻に
秘愛をこめて特別な徴を描いた
洞窟のなかであなたは腕をさしあげて白く震えていた
そしてわたしは貝殻をかき集め永遠の愛をあなたに誓った
あなたは今も覚えているだろうか
わたしの心の底に打つ音があなたに聴かせた愛の言葉を
あなたの想いあふれるばかりの菫色の眼にわたしが火と燃え
頸筋を愛撫して纏っていた時の胸の鼓動の高鳴りは
紫色の貝殻に印されている
絹のようなあなたの睫毛のあいだを漏れて
黒ぐろとして流れてくる流し眼も
天鵞絨のごとく波打ち煌めく緑髪も
あなたの眩しい胸を飾る縺毛も
桜色の貝殻には描かれている
白い肌の露わなあなたよ
その肢体の美しさ、それは蒼白い濡れた葉むらのように
若々しく古代の色彩を帯びていた
美しい耳と、ときおり朱に染まるうなじも白色の貝殻は知っている
貝殻よ、お前にはわたしの愛の徴が刻まれ、消えることはない
窓に映る冷たい雪景色
外には吹雪の霧しか見えない
あなたの記憶と住処のなかでわたしは生きている
その愛は美が風の塵となるその時まで消えることはない
あなたを待つことの驚愕、それはあらゆる嘆きを飽きさせてしまう
愛の深さよ
わたしは神に祈る
海の岸辺に建てられた家でわたしを目覚めさせるあなたの足音を聴くこと
それだけを
選出作品
作品 - 20190819_647_11401p
- [佳] 貝殻の秘愛 - ゴロキ (2019-08)
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貝殻の秘愛
ゴロキ